Romances inciertos (c) Nino Laisne

仏・アヴィニョン国際演劇祭やシャイヨー国立舞踊劇場で完売となったダンス公演、フランソワ・シェニョー&ニノ・レネ『不確かなロマンス―もう一人のオーランドー』が日本へやって来る。

ダンサー・歌手・振付家・歴史研究家と多彩な顔を覗かせるシェニョーと、造形作家・映像作家・音楽家のレネ。ジャンルを超えて結びついた二人が4年もの歳月をかけて研究し、共同演出した本作は、2017年9月にスイス・ジュネーブにて初演された。その後、上演を重ねるうちに観客から「現代へ“オペラ=バレエ”を蘇らせたような傑作」と言われるように。

全三場で構成されるシーンにはいずれもスペインを舞台に、①男装の少女戦士、②詩人フェデリコ・ガルシア・ロルカの作品でも知られる両性具有の聖ミカエル、③アンダルシアのジプシーといった不確かなジェンダーの3人が登場する。これらに扮するのは、シェニョー本人。男声はもちろん、かつてのカストラート(去勢された男性歌手)を想像させる女性的な声で歌いながら、フラメンコやバロックダンス、民族舞踊などを交えて舞い踊る。彼の足元は、竹馬やハイヒールによって常に不安定だ。

そのめくるめく性を越境する様子は、サブタイトル“もう一人のオーランドー”にもあるように、トランスジェンダーである美貌の青年貴族を主人公としたヴァージニア・ウルフの小説『オーランドー』をイメージさせる──という意見も。外見とアイデンティティを変容させながら見事なソロダンスと歌唱を繰り広げる、シェニョーの表現力を見届けておきたい。

テオルボ/バロックギター、バンドネオン、ヴィオラ・ダ・ガンバ、パーカッションの編成による4人のプレイヤーが、レネが編曲を手がけた音楽、特に400年の歴史を持つスペイン音楽の生演奏を披露することも本作を堪能するポイントのひとつだ。各時代の特徴的な音色をバックに展開されるシェニョーのパフォーマンスで、時間と空間を超える“旅”に出かけてみては。

公演はまず、12月19日(土)に埼玉・彩の国さいたま芸術劇場 大ホールにて幕開け。その後、21日(月)に京都・ロームシアター京都 サウスホール、23日(水)に福岡・北九州芸術劇場 中劇場と巡演する。チケット販売中。

文:岡山朋代