■映画『海猿』の原作使用料――交渉したら10倍以上にアップ!
佐藤氏が持つ3つめの顔は、ドラマ化・映画化された『海猿』の原作者。やはりファンとして、そこにまつわる収入額は気になるところ。具体的な金額まで赤裸々に語っていただいた。
「テレビの場合、原作使用料は1クールのドラマで200万円くらいです。ほかの原作者さんもだいたい100~200万円くらい。映画も200万円ちょっとでした。これが多いか少ないかは人によって受け取り方が違うでしょうけど、僕はすごく少ないと思ってます。何十億円と動いてるのに、原作者に200万しか入らないってのは何かおかしいと思って」
あれ? さっき「今年は映画の収入が漫画の収入より多い」と話しておられたような? 200万円だと漫画の収入に全然届いてない気が……。
「それは『海猿』の映画2作目までです。邦画ナンバーワンで70億のヒットと言われても原作者の僕には200万円ちょっと。どんなに興行収入が上がっても固定。“それはおかしいだろう”と思ったので、契約を小学館(海猿は同社のヤングサンデーで連載)に任せず自分で交渉しました。と言っても、行政書士さんに頼んで契約書の文面を作ってもらったり、数字の調整をしてもらったりしてですね」
それで原作使用料はどこまでアップしたのだろうか。
「2作目のヒットや色々な要因があったとは思いますが、結果として映画の3作目からは10倍以上にアップしました。桁が一つ上がったんです」
10倍以上とは……すごい話だ。それなら小学館は今までどんな契約をしてきたのだろうか。作家のモチベーションを考えるなら、もっと早くから有利な交渉もできただろうに。
「映画の2作目までは『映画化の話まとめてきたよ。これにハンコ押して』って契約書が届く感じでした。出版社としては、すみやかに契約を結ばせたいというのがあるんだと思います。変に揉めたら自分たちにお金が入ってこなくなりますから。彼らは別に僕がいくらもらっても関係ないんですよね(笑)。だからそんなに作家側にたって交渉してくれるわけじゃない」
漫画が映画化されれば出版社は単行本の売上が伸びるだけでなく、製作委員会のメンバーとしてヒットした分の利益還元もプラスされる。関連グッズやムック本なども売れるはずで、ヒットが約束されている『海猿』シリーズはまさにドル箱タイトルだっただろう。なのにいつまで経っても、作者の権利収入が(増刷による多少の印税追加はあるにせよ)固定というのはたしかに腑に落ちない話だ。
さらに佐藤氏は驚きの事実を語る。
「以前は映画で『海猿』のグッズなどが作られても、まったく僕には権利料が入ってこなかったんですよ。それも交渉してお金が入ってくるようになりました」
映画に関連したアイテムは原作者にも当然利益が還元されると思っていたが、どうもそうではないらしい。業界の慣習は我々の予想を超えていたようだ。
「作家さんは出版社より立場が弱いですから、十分な権利料がもらえなくても『その代わり本をいっぱい売るから!』と言われたら、なかなかそれ以上の主張ができないんです。でも、言ったら変わりますね。言わなきゃ変わらないってだけです。“作家が黙ってるからそのまま黙ってやっちゃおう”で済ましてしまう部分が、出版社にはありますね」