ジャズ・ピアニストを夢見る中学教師のジョー・ガードナー(声・ジェイミー・フォックス)は、マンホールに落ちてソウル=魂の世界へ入り込む。ジョーは、地上へ戻る方法を探るため、人間になることを拒み続けるソウルの22番と共に冒険の旅に出る。ディズニー&ピクサーの最新作『ソウルフル・ワールド』が、12月25日からディズニープラスで配信された。本作のピート・ドクター監督とプロデューサーのダナ・マレーに話を聞いた。
-『リメンバー・ミー』(17)、『2分の1の魔法』(20)、そしてこの映画と、最近のピクサー作品は、生と死、生者と死者とのかかわりを描いたものが続いています。また、『トイ・ストーリー4』(19)のジョシュ・クーリー監督は「ウッディが『メンター=師』の役割を果たしている」と語っていましたが、この映画にもメンターが登場します。こうした共通性は、偶然ではなく意図的なものなのでしょうか。
ピート 興味深いことは、ピクサーで作る全ての作品は、僕たち作り手の人生が反映されたものになっていることです。ですから、そうしたテーマを意識していなくても、自然とそうしたものが浮かび上がってくるのでしょう。たとえ、出てくるのがモンスターであっても、魚であったとしても、それは、僕たち自身のことなんです。自分たちが体験したことがもとになっていることが多いのです。この映画も、僕自身が「なぜ自分はここにいるのだろう」「残された時間で自分は何をするべきなんだろう」と考えたところから始まっています。
-共同監督のケンプ・パワーズさんの人生が、主人公ジョーのキャラクターに反映されているそうですが、では、22番のユニークなキャラクターはどこから生まれたのでしょうか。
ピート それはダナじゃないの(笑)。
ダナ 確かに『インサイド・ヘッド』(15)の「嫌悪」のキャラクターは私がモデルですが…(笑)。22番のキャラクターは“みんな”からできていると思います。私も、人生の中で「何をしたらいいんだろう」「これからどこへ行ったらいいんだろう」と悩むことがありますが、そうした気持ちが22番に反映されているのだと思います。そして、誰もが彼女のように、「自分は生きる価値があるのだろうか」と悩むことがあるので、そういう気持ちも体現しているのだと思います。ですから、子どもたちが見ても、感情移入ができるキャラクターになっているのです。ジョーに関しては、ケンプはもちろん、ピートや他の人の体験も入っています。
-この映画のターゲットは?
ダナ それは家族全員です。ただ、果たして全員に届くのか、という心配はあったので、『インサイド・ヘッド』のときもそうでしたが、ピクサーのスタッフの子ども(100人から150人ぐらいで、4歳から20歳ぐらいまで)を集めて試写をしました。見てもらった後で、感想を聞くと、5歳児でも、映画の中で起きたことを理解していました。私たち大人は、子どものことを見くびりがちですが、彼らは、私たちよりもはるかにこの映画のことを理解してくれました。さすがに、ジョーが抱いている年齢的な危機感は子どもには分からないと思いますが、それ以外の部分は、もちろんビジュアル的な助けもありますが、ちゃんと届くのだと思いました。
-『インサイド・ヘッド』では人間の内面=脳内を描き、今回はソウル=魂でした。こうしたアイデアはどこから浮かんでくるのでしょうか。また、『幽霊紐育を歩く』(41)やリメークの『天国から来たチャンピオン』(78)、あるいは『素晴らしき哉、人生!』(46)といった同種のクラシック映画の影響はあるのでしょうか。
ピート アイデアがどこから湧いてくるのかは僕にも分かりません。もし、分かるところがあるなら、そこに行きたいぐらいです(笑)。また、昔の映画などからアイデアを得ることはありませんが、企画が生まれた時点で、同じようなテーマを持った作品を見ることはします。今回も、今あなたがおっしゃった『天国から来たチャンピオン』や『素晴らしき哉、人生!』、それから『あなたの死後にご用心!』(91)、シャーリー・テンプルの『青い鳥』(40・日本未公開)を見ました。それらを見ながら、「何がうまくいっていて、何がうまくいっていないのか」という点を参考にしました。
-ジョーがピアノを演奏する指などはCGでリアルに表現する半面、ソウルの世界では線画のようなかわいいキャラクターが登場します。そうしたコントラストの付け方に、何かこだわりはあったのでしょうか。
ピート 今回は、まずソウルのデザインから作り始めました。果たしてソウルとはどんなものなのか、というリサーチをしました。すると「空気や蒸気のようなもの」「物理的なものではない」など、いろいろな意見が出ました。それをどういう形にするのかと悩みながら、あのデザインが生まれてきました。次に、カウンセラーたちは、人間でもソウルでもない、何か違うものにしなければならなかったので、たくさんのデザイナーたちが協力し合って、あのような奇妙な形をしたものを作ってくれました。
ダナ ピアノのシーンは、演奏者の指が、とても長くて美しかったので、レコーディングのときに、カメラを何台も置いて、演奏する指を撮らせてもらい、それをアニメーターたちに参考にしてもらいました。それだけではなく、スタジオ内には、ミュージシャンやピアノが弾けるアニメーターたちもいたので、演奏のシーンは彼らに頼んで作ってもらいました。
-最初は、自分の夢のことしか考えないジョーと、すねた22番の心境が変化していくところが、この映画の見どころだと思います。彼らは最後に、平凡な日常や風景にこそきらめきがあることに気付きますが、これは今のコロナ禍の中では、とても重要なテーマではないでしょうか。
ピート 何かにとても情熱を傾けている人に対して、たとえその全てに共感ができなくても、わくわくさせてくれることはあると思います。この映画のジョーも、ジャズに思い入れがない観客にとっては感情移入ができなかったとしても、彼の情熱だけは感じられるようにしたかったのです。コロナ禍に関しては、まさにおっしゃる通りだと思います。僕たちも最初からそのことを考えていました。たとえ何かに対して情熱や興味を持てなくても、普通の日々のちょっとした瞬間にも美しいものはたくさんあります。普段僕たちはそれを見過ごしていますが、その見過ごされた小さな美しいものたちこそが人生を作っている、そうしたことをこの映画を通して伝えたいと思いました。
(取材・文/田中雄二)