「先の見えなさ」から不安感は強まっている
表2【現在の生活に対する満足度】
表2 20代の不安感は増大する傾向にある。「国民生活に関する世論調査」(内閣府)アーカイブより作成
60年代の幸福調査では、健康面への関心が最も高かったと古市さんは指摘する。当時と比べれば、現在の日本の若者は、はるかに健康的かつ文化的な暮らしを送ることができている。しかし一方で、プレッシャー世代を中心とする現在の20代は以前の20代よりも強い不安感を抱いているようだ(表2)。
「この世代が不安を抱いている理由は『先の見えなさ』です。会社に入れば、定年まで先が見えたような時代とは違って、今は会社に入っても定年まで働くと考えることは難しいし、会社が続くとも思えない。5年後、10年後の自分を想像できないのはもちろん、社会がどうなるかも分からないという中で不安が高まっています」
かつての日本では、家族や地域社会、会社などが人々をつなぎとめる共同体の役割を果たしていた。しかしバブル経済の崩壊以降、日本社会が急速に流動化する中で、それらは多くの人にとって「寄る辺」ではなくなってしまった。
「90年代後半から大企業がいくつか潰れ、もはや会社を素朴に信頼できない。地域は空洞化が進み、家族も高齢化していく。これまでの共同体が続くとは思えなくなっている中で、若い世代は仲間に頼るしかなくなりました。その結果、不安感の高まりとともに、友達や仲間を大切に思う傾向がパラレルに進んでいます」
友達や仲間を大切に思う傾向は、プレッシャー世代の消費行動にも表れている。一般的に「モノを買わなくなった」と言われる同世代だが、古市さんは「ただモノを買わなくなったのではなく、買う対象が変わったと捉えるべき」と話す。
「確かにクルマの購入比率は落ちていて、運転できる人も減っています。背景には、車に乗ることがかっこいいという価値観が失われたことがあります。しかし一方で、携帯などの通信費だとか、パソコンだとか、お金の使い道が仲間集団に加わる『入場料』に変わってきている。ランクアップのための消費というよりは、人とつながるための会員費にお金を出しているんです」
【プレッシャー世代が体験した出来事・カルチャー/その2・1998~2001年】
1998年(11歳〜16歳)
◎出来事
・長野オリンピック開幕(2月) ・FIFAフランスワールドカップ開催(6月) ・和歌山毒物カレー事件発生(7月) ・Windows 98発売(7月) ・北朝鮮テポドン発射(8月)
◎カルチャー
・SMAP『夜空ノムコウ』 ・モーニング娘。、椎名林檎、浜崎あゆみ、宇多田ヒカルデビュー ・映画『踊る大捜査線 THE MOVIE』 ・ドラマ『GTO』 ・キャミソール、スリムジーンズが流行に
1999年(11歳〜17歳)
◎出来事
・EU、共通通貨ユーロ導入(1月) ・日産自動車、フランスのルノーと資本提携(3月) ・光市母子殺害事件(4月) ・コロンバイン高校銃乱射事件(4月) ・東海村JCO臨界事故発生(9月)
◎カルチャー
・宇多田ヒカル『First Love』 ・モーニング娘。『LOVEマシーン』 ・映画『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』 ・アニメ『ONE PIECE』放送開始 ・カリスマ美容師ブーム
2000年(12歳〜18歳)
◎出来事
・大阪府知事選で太田房江が当選(2月) ・小渕首相脳梗塞で緊急入院、第1次森内閣発足(4月) ・ストーカー規制法公布(5月) ・みずほフィナンシャルグループ発足(9月) ・世田谷一家殺害事件(12月)
◎カルチャー
・バラード曲のヒット『TSUNAMI』『桜坂』など ・映画『ミッション:インポッシブル2』 ・ドラマ『Beautiful life』 ・プレイステーション2発売 ・ミレニアムブーム
2001年(13歳〜19歳)
◎出来事
・ギリシャユーロ導入(1月) ・ジョージ・ブッシュ米大統領就任(1月) ・ユニバーサル・スタジオ・ジャパン開園(3月) ・アメリカ同時多発テロ事件 (9月) ・アフガニスタン侵攻(10月)
◎カルチャー
・Apple、iPod発売 ・浜崎あゆみ『M』 ・映画『ハリー・ポッターと賢者の石』 ・映画『千と千尋の神隠し』 ・アニメ『テニスの王子様』