いつでも「会える」現代では逆に「会えないこと」が憧れ

人とのつながりを何よりも重視するプレッシャー世代にとって、恋愛の位置づけも先行世代とは違う。

「恋愛はいわば日常の延長で、昔のようなスリルはなくなりつつあります。そもそも携帯電話登場前の時代には、相手と連絡を取るのも難しかったのですが、現在はそういったハードルも下がり、常につながっていられるようになった。その結果、恋愛そのものが非日常ではなくなってきています。
いつでも会えるのだから、恋愛でロマンが成り立ちにくい。Jポップでは『会いたい系』と呼べるような歌詞を歌うシンガーが増えましたが、今の時代ではいつでもどこでも会えるのだから、逆に『会えないこと』が憧れなんです」

【パートナーをもたない未婚者の割合】

<恋に消極的なのはプレッシャー世代だけじゃない?> 全世代的にパートナーを持たない未婚者の割合は増加傾向にあり、プレッシャー世代特有の傾向とは言い難いことがわかる。/国立社会保険・人口問題研究所「出生動向基本調査」より

上で紹介している調査によれば、プレッシャー世代では交際相手のいない人の割合が男女ともに増える傾向にある。メディアで「草食系男子」が増えたなどと報じられることも多いが、古市さんはこうした現象の本質は「恋愛のハードルが下がり、無理をして恋愛しなくてもいいということを多くの人が知ったことにある」と指摘する。

「無理して恋愛をすることがマストではなくなったのです。グループでバーベキューに行ったり、同性同士でいるほうがラクだし楽しめると感じる人が増えました。また、草食化という言葉によって、男の子が恋愛しないことをエクスキューズしやすくなった面もあるでしょう。恋人がいないことがネガティブなスティグマ(刻印)ではなくなったんです。今はモテないネガティブなオタク同士がそれをネタにつながりあえるから、かつてのような疎外感も持ちにくい。結局、無理して恋愛していた層が無理しなくなった、という話だと思います」

 

文化的なバブルを経験した最後の世代

一方、映画や音楽、ゲームなどカルチャー方面はどうか。プレッシャー世代は小中学校時代に「たまごっち」「女子高生」「Jポップ」ブームに遭遇している。古市さんは「僕たちは文化的なバブルを知っている最後の世代」と話す。

「ʼ95年頃は女子高生ブームが起こっていて、渋谷というものが消費の牽引力として注目されていました。安室奈美恵のブレイクもその頃で、Jポップが元気だった時代です。小室哲哉がメガヒットを連発していて、日本の音楽史上セールス的には’98年くらいがピークですよね。この年に椎名林檎がデビューし、同じタイミングで浜崎あゆみ、宇多田ヒカルが出てきた。それがJポップの最後の元気な時代で、僕たちはモノが売れるということを一応体験している世代ではあります。僕らの世代はお金を出してCDを買っていたけど、下の世代になるとYouTubeで見るだけでいいとか、そもそも買う必要がないという人が増えます。消費スタイルに大きな変化が起きているのです」

 


【プレッシャー世代が体験した出来事・カルチャー/その3・2002~2005年】

2002年(14歳〜20歳)
◎出来事
・雪印牛肉偽装事件(1月) ・ゆとり教育がスタート(4月) ・日韓合同FIFAワールドカップ開幕(5月) ・住民基本台帳ネットワーク開始(8月) ・金正日、日本人拉致問題を公式に認める(9月)
◎カルチャー
・エイベックス、CCCDを採用 ・Dragon Ash『FANTASISTA』 ・映画『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』 ・ドラマ『ごくせん』 ・アゴヒゲアザラシのタマちゃんブーム

2003年(15歳〜21歳)
◎出来事
・コロンビア号空中分解事故(2月) ・日経平均株価が7,607円88銭の安値(4月) ・六本木ヒルズがオープン(4月) ・世界水泳選手権で北島康介が世界新記録で優勝(7月) ・アメリカ軍がサダム・フセインを拘束(12月)
◎カルチャー
・SMAP『世界に一つだけの花』 ・iTunes Music Storeがスタート ・映画『踊る大捜査線 THE MOVIE 2レインボーブリッジを封鎖せよ!』 ・映画『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』 ・映画『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』

2004年(16歳〜22歳)
◎出来事
・松本智津夫被告に一審で死刑判決(2月) ・製造業への人材派遣が解禁(3月) ・年金改革関連法案可決(4月) ・アテネオリンピック開幕(8月) ・スマトラ島沖地震 (12月)
◎カルチャー
・宇多田ヒカル『Utada Hikaru SINGLE COLLECTION VOL.1』 ・映画『ハウルの動く城』 ・アニメ『ふたりはプリキュア』 ・ニンテンドーDS、PSP発売 ・第一次韓流ブーム

2005年(17歳〜23歳)
◎出来事
・ジョージ・ブッシュ米大統領再選(1月) ・ライブドアがニッポン放送株式を大量取得(2月) ・「愛・地球博」が開幕(3月) ・セブン&アイ・ホールディングスが発足(9月)
・郵政民営化関連法案が成立(10月)
◎カルチャー
・ORANGE RANGE『musiQ』、ケツメイシ『ケツノポリス4』などがミリオンセラーに ・映画『電車男』 ・ドラマ『花より男子』 ・アニメ『ドラえもん』完全リニューアル