民族舞劇や歌舞、器楽などを融合してオリジナル作品を上演する総合芸術団体・上海歌舞団が、2年前の日本ツアーで大好評を博した『朱鷺』で待望の再来日中だ。『羽衣伝説』や『白鳥の湖』などの伝承・民話をモチーフに、村の青年ジュンと朱鷺の精ジエの時空を超えた愛を描いた物語。8月29日、東京・Bunkamuraオーチャードホールで全国公演の幕が開いた。
一幕は、淡いグラデーションで水墨画のように描かれた山々を背景に、古代の農村の様子が綴られる。村の青年ジュン(王佳俊)が薪を拾いに山の奥深くに入ると、湖のほとりで仲間たちと無邪気に集う朱鷺の精ジエ(朱潔静)がいた。朱を含めて朱鷺を演じるダンサーたちは細くしなやかで、羽衣とも朱鷺の羽根とも見える布をなびかせながら踊る姿は、まさに『羽衣伝説』に登場する天女のイメージだ。ジュンとジエはひと目で恋に落ち、夕陽が落ちるまでのひと時を睦まじく過ごす。だがジュンがふと目を覚ますと、ひとひらの羽根を残してジエの姿はなく……。
ジュン役の王は、薪を村人に分け与えるほどの誠実さをもった青年が、初めて出会ったジエにもまっすぐ惹かれていくさまを好演。一方、「佐渡島で朱鷺の様子を観察しました」という朱は、朱鷺らしい動きを巧みに取り入れつつ、ジュンへの想いを優美に表現している。それは儚い女性性の表れのようでもあり、疲れて眠るジュンを包み込む、母なる大地の象徴のようでもある。壮大でドラマチックな楽曲に乗せて、朱鷺の精たちが一糸乱れぬアンサンブルを繰り広げるシーンも必見だ。一幕のラスト、消えたジエを探してさまようジュンの後ろを、朱鷺たちが滑るように次々と横切って消えてゆく場面は神秘的ですらある。物語は二幕で、産業革命を迎えて朱鷺が絶滅の危機に瀕した近代、さらに21世紀の現代へと続く。ジュンとジエの魂が時を越えて出会い、別れてゆく中で、次第に浮かび上がってくるものとは。観終わった後、観客それぞれの胸にその答えが残るだろう。
初日公演を前に行われた囲み会見では、オフィシャルサポーターとして谷村新司と草刈民代が登壇。「初めてDVD(で舞台映像)を観た時、アンサンブルの凄さにビックリしました」というのは谷村だ。「朱さんの踊りは素晴らしいし、王さんはチャーミングなので、日本でもファンがとりこになりそう(笑)。この後、ナマで観られるのでワクワクしています」と話した。草刈は「『白鳥の湖』の群舞は有名ですが、『朱鷺』の群舞はそれとは全く別の凄さがあり、心が奪われます。なかなかこういう出合いはないと思うので、ぜひ堪能してください」と、元ダンサーならではの視点で魅力を語ってくれた。
オーチャードホール公演は本日8月30日(水)まで。その後、9月2日(土)・3日(日)愛知県芸術劇場 大ホール、9月6日(水)から10日(日)まで東京国際フォーラム ホールC、9月13日(水)・14日(木)大阪・オリックス劇場を巡演。
取材・文 佐藤さくら