藤子不二雄(A)原作のブラックユーモア漫画「笑ゥせぇるすまん」を舞台化した「笑ゥせぇるすまん」THE STAGE。2020年の4~5月に上演予定だった本作だが、新型コロナウイルスの影響を受けて全公演が中止となり、改めて3月26日から上演される。喪黒福造を演じる佐藤流司と演出の小林顕作に、公演への思いや見どころを聞いた。(※藤子不二雄(A)の(A)は、正しくは丸囲みのA)
-2020年の公演のときには、稽古もほとんどできないまま上演中止が決まったそうですね。これからという段階での中止は複雑な思いもあったのではないですか。
小林 本読みを1回しただけだったので、実はそれほど悔しいという思いはなかったんです。もし、作り込んでからの中止だったら、その方が僕を含めてみんなのショックは大きかったんじゃないかなと思います。幸いにも早い段階での中止決定でしたので、僕はみんなに「ぬか床につけましょうよ」とメールを送り、「漬物にしたらもっとおいしくなる」という考えにしてしまった方がいいと思いました。
佐藤 (中止の話を聞いたのは)まさに寝耳に水でした。悔しいとか悲しいよりも「あれ?」という感じでした(笑)。
-では、今回、再演が決まって「次こそは!」というよりも、やっとスタートするという感じですか。
小林 「ああ、漬けといたやつ、やるんだ」という感じです。続いていたものを断念したという挫折感があったわけではないですから。ただ、昨年作り上げた台本だったので、若干、セピア色に見えました。「漬かってるな、懐かしい曲だな」って不思議な感覚にはなりました。
佐藤 セピア色に見えたからなのか、それとは関係がないのかは分かりませんが、大筋のストーリー以外の小ネタは、ほぼほぼ全替えですからね、台本(笑)。顕作さんの思いつきで出来上がっているというか。
小林 作りながら僕の気持ちがどんどん変わっていっているので、ギャグシーンなどは全部カットして、新たに僕が作っています。
-そもそも「笑ゥせぇるすまん」の舞台化が発表された当時、舞台化しにくい作品なのではないかと驚いたのですが、最初に本作の話を聞いたときはどう感じましたか。
佐藤 俺としては、舞台化できるかとか、しづらいかとかは俺が考えることではないので、単純に面白そうと思いました。
小林 僕はびっくりしましたね。でも、喪黒福造を流司にやらせるというのは面白いと思いました。原作は、ブラックユーモアが効いた作品なので、その観点からいくと流司はぴったりだと思ったんです。あとはビジュアルですが、全く違うビジュアルなのに、出来上がったものは「笑ゥせぇるすまん」になっているという作品を作るのは演出家として面白いと思ったので、僕はそこに興味が湧きました。
-昨年、佐藤さんに本作についてインタビューした際には、「ビジュアルはスタイリッシュに、お芝居は原作に忠実にやりたい」とお話しされていましたが、実際に今は、喪黒福造をどのように作り上げていますか。
佐藤 その記事、まだ残っていたら消しておいてください(笑)。今は、喪黒福造という名前を借りて俺が芝居しています。寄せにいっていないので、新しいものになっていると思います。
-演じる上では、どのようなところを意識していますか。
佐藤 自然体でいようと思っています。作り込んだりせずに、「喪黒福造(26)」という感じです。他のキャストさんは、皆さんリーサルウェポンみたいな方ばかりなんですよ。たいてい、一つの作品に1人ぐらいは飛び道具的な存在の方がいらっしゃいますが、今回は、ほとんど全員がそういう方なんです(笑)。
小林 確かに、みんなキャラが濃い。なので、最終的に、流司が演じている喪黒さんが一番まともな人に見えます。
-小林さんから見た佐藤さんの俳優としての魅力は?
小林 流司の「明日辞めてもいい」という感覚で生きている感じがすごく好きです。それは何にも代え難いものなので、それを大切にしたいと思って、今、演出しています。役を作り込まないでほしいし、演じるごとに芝居が変わってしまっていてもいいと思っています。なので、こうしてほしいという指示はほとんどしていないです。僕は、流司にはきっちり、かっちりやる俳優さんになってほしくないという気持ちがあるんだと思います。日本一適当な俳優さんでいてほしいです(笑)。
-では、改めて本作の見どころは?
佐藤 前半は、お客さんも体力勝負のところがあるので、観劇の前日には睡眠をしっかり取らないと死んでしまう可能性が…。
小林 そんなショッキングな作品になってる(笑)?
佐藤 (笑)。笑いっ放しなので体力も使いますし、展開も早いので、集中できる環境で見ていただけるといいと思います。後半はなぜか分からないけど泣ける。舞台としてすごくいい作品になっていると思います。
小林 今回は、5話からなるオムニバスなので、茶の間でテレビを見るような感覚で、気楽な気分で見ていただきたいです。ショッキングな作品になっていると言われていますが(笑)、嫌なことを忘れて帰っていただけるような作品になればと僕は思っています。そのためにも役者が頑張らないと喜んでもらえないと思うので、今は、どうしたら彼らが一番すてきに面白く見えるのかということばかり考えています。
-原作には怖い要素も多分にあると思いますが、本作では笑いの方が多い作品になるのでしょうか。
小林 そうですね。怖くて面白い作品にしたいと思っています。本当にあったら怖いけど、目の前で思いっきりそれをやられたら笑ってしまうというものにしたいです。
-喪黒福造としてはどんなところに注目してもらいたいですか。
佐藤 等身大で演じているので、このままの話し方で全編進んでいくのですが、喪黒福造は人間の本質的なことや痛いところをつくせりふをサラッと言うので、それを聞き逃さないでほしいです。聞き逃したら、何を見せられているのか分からなくなるので(笑)。サラッと言いますが、そこは持ち帰っていただきたいです。
-等身大の喪黒福造なんですね。
佐藤 俺のまんまな感じので、喪黒福造の格好をした佐藤流司です(笑)。そこにせりふがあって、それを俺が話している感じです。
小林 でも、僕はこの作品は、非常に「笑ゥせぇるすまん」になっていると思います。これが僕の提示する「笑ゥせぇるすまん」という作品なので、ぜひ、見ていただいた方にいろいろな意見を出してほしいと思います。
(取材・文/嶋田真己)
「笑ゥせぇるすまん」THE STAGEは、3月26日~4月11日、都内・品川プリンスホテル ステラボールで上演。3月26日の初日公演、および4月11日の千秋楽公演は、「シアターコンプレックス」でのライブ配信が決定。3月24日午後6時からは、出演者による「開幕直前 ドーーン!と座談会」も公開予定。
公式サイト https://www.nelke.co.jp/stage/warau-stage/