Re.roadの金井佑輔代表取締役社長

若年層との新たなコミュニケーションツールとして注目され始めたeスポーツが、日本各地で芽吹き始めている。長野県松本市でも、どっしりと根をはって活動する企業が現れた。2019年8月に立ち上がったRe.roadだ。毎月、高校生向けのeスポーツ大会を開催し「活躍の場」を提供する。同社の代表取締役社長を務める金井佑輔氏は同時に財務・会計を主としたコンサルティング会社を経営している。なぜ、eスポーツ事業を始めるに至ったのか。本人に真意を尋ねた。

──財務関係のコンサルティング会社も経営されているということで、eスポーツ企業の経営というなら推察できるのですが、なぜeスポーツ大会を高校生向けに開催することになったのでしょうか。

金井 まず会社ができた背景としまして、私が長野県松本市で「松本青年会議所」という街づくり団体に加入しているということがあります。19年は委員長を務めており、その頃の課題として若者とともに街を活性化しよう、というテーマがありました。

何をすべきか模索する中で、若者の声を聞いてみることにしました。高校生や大学生にヒアリングしたところ、その中でeスポーツという言葉が出てきたのです。「なるほど、最近は『eスポーツ』が流行っているのだな」ということで、さらに調べました。すると、地元の松本工業高校でeスポーツの部活が作られたと知り、早速、調査のために伺いました。

自分はゲームをあまり知らなかったのですが、松本工業高校ではゲームが部活になっていて、その部活のすごい光景といいますか、すごい熱気に圧倒されてしまいました……。「これはくるぞ!」と、その時思ったんです。eスポーツをこの松本の街の新しい文化にしてみよう、ということで動いたのがきっかけですね。

──「すごい光景」というのは、おそらく学校でゲームをしている光景かと思いますが、最初に見たときはどのように感じたのでしょう。それまでの常識とはかけ離れているかと思いますが……。

金井 実際に見るまでは、勝手なステレオタイプのイメージで「隅っこでピコピコやっている」という考えでした。でも、いざドアを開けて教室に入ってみると、ゲーム機ではなくPCでゲームをしているんです。そこにも驚きました。内容の把握までは難しかったのですが、チームの連携が重要で、ちゃんとコミュニケーションをとって、一つの試合に勝つという目的の元に真剣に取り組んでいる姿を見て、「これはすごいな」と感じたわけです。今の新しい時代を痛感しました。この新しい文化をこの街に落とし込んでいきたいなと思いました。

そこから1年間ほどいろいろな方に意見を伺う中で、印象的な声がありました。とある高校生から聞いた、「eスポーツは確かに流行っているけれど、全然見せ場が無い。見せ場が欲しい」という意見です。「これはもう大きな大会をやろう!」と思い立ちました。

──実際にどのような大会を開催されたのでしょう。

金井 19年7月に始めて、長野県内初の大型のeスポーツ大会を開催しました。茨城国体の文化プログラム「全国都道府県対抗eスポーツ選手権2019 IBARAKI」に向け、長野県の代表を決める『ウイニングイレブン 2019』の大会です。参加者や観戦者含めて300人 ほどが集まりましたね。松本工業高校にも参加していただき、大活躍でした。

大会自体は、青年会議所の主催ということで企画していたので、高校生が真剣な眼差しで本気でプレーしている姿に、多くの人から心打たれたと反響がありました。それを受けて考えたのは、「これは間違いなく将来性がある。青年会議所の活動は単年度制で1年しか運動ができない。継続していくためには、実行委員会などしっかりした組織でやるべき」ということです。

街作りの団体では運営スタッフはボランティアで、個人の体力や余力、善意に依存しています。運営する人の余力がなくなれば途絶えてしまう。でも、eスポーツは文化となり得るものなので、しっかりとした組織で安定した運営をしていかなければならない。そのためにも、しっかり収益を上げていくということが大切です。そう、株式会社。ということで1カ月後には会社が創立されました。

──動きが速いですね……。

金井 スピードが命です(笑)

──社名の「Re.road」はゲーム内の用語から?

金井 社名の由来は、Re.roadの「R」が令和の時代に出来たということ、eが「eスポーツ」、roadが「道」ということでして、令和の時代にeスポーツで道を切り開くという思いで会社を立ち上げました。

──関わるまではeスポーツを知らなかったとのことでしたが。

金井 見たこと はなかったですね。見ていても記憶には留めなかったのかもしれません。東京は多様性が育まれていますが、地方にはまだありません。新しいモノを受け付けない空気があります。古いものは良い、という反射のようなモノですね。でも、10年、20年後にこの街の主役になっているのは、今の10代、20代。そういう若い人たちがこの街を支えるためにも、新しいモノを街に入れないといけないと考えています。そこで、20~40歳の青年しか入れない団体が、eスポーツという“とがったこと ”をして、街に新しい風を入れようと思って手がけました。

──そういった空気感ですと、eスポーツイベントに対する反対もあったのでは。

金井 ありました。これはまだまだ解決していない、というか道半ばなんですけれど。現在、高校でのeスポーツ部の創設にあたってサードウェーブが実施している「高校eスポーツ部支援プログラム」が活用できますよ、という普及活動をしているんですが、「学校でゲームなんて……」という高校もまだありますね。

──青年会議所でeスポーツの話を切り出したときはどのような反応でしたか。

金井 負の圧力がすごかったです。青年会議所は地元で力を持った人も参加する団体でいろいろな職業の方が集まっているのですが、その中でみんなの同意を得たら実施、という条件が出されました。クリアするのに半年以上かかりました。

──どのように説得されたのでしょう。

金井 毎回その人に会って説明したり、食事の席でeスポーツを最近の流行として話をしたり、ものすごく時間を掛けてみんなを説得しました。

──コンセンサスを集めるのが大変な苦労ですね。それでも実施できたということは、説得はうまくいったんですね。

金井 「これをやっても良いですか?」という議決を最後に取るんですけど、おかげさまで全員賛成をいただきました。それで、青年会議所の名前でeスポーツの大会が開催できる運びとなりました。そこからは、大会までスピードの問題です。認知拡大や動員数を伸ばす必要がありました。幸いなことに、さまざまな地方メディアとかつながりはあるので、とんとん拍子で開催にこぎ着けました。

──実際に開催してから、各方面の反応はいかがでしたか?

金井 開催当日は多くのメディア関係者がきてくださいまして。次の日の朝は、地元の有名な新聞社さんが一面の一番大きな扱いで記事を掲載してくださいました。地元のみなさんは新聞を見ますので、「なるほどねぇ」と。「良い」とはいわないんですけれど、「こんな時代がきたか」と。多くの人に考えるきっかけを与えられたかなとは思います。また、テレビのニュースでも取り上げられたので、その後、1カ月ぐらいは街の中でeスポーツというキーワードが響いていたかなと思います。

──その後、事業を興されたと。

金井 当時一緒にやっていた仲間と2人で会社を立ち上げました。本業は今も別でやっています。それで会社を作るとか、経理処理とかお金を回すことには慣れているのですが、ゲームのことはよく分からず、本当のところどのようにeスポーツ事業を手掛けていけば良いのか、全く分からなかったわけです。

一方、会社を立ち上げた仲間は、映像製作や映像配信を手掛ける会社を経営していたので、「そういうところなら分かるよ」といってくれました。そうして2人でいろいろ話して、大会なら出来ると。そういう話になりまして大会を作りました。

──それが毎月高校生向けに開催されている「GROWZ(グロウズ)」ですね。

金井 はい。“GROW”は成長のGrowからきてます。“Z”はZ世代など若い人々につながるので、その二つをつなげてGROWZという名前になりました。eスポーツの普及と発展、それから街の活性化につなげるため毎月1回、人気のゲームタイトルによるeスポーツイベントをやっています。このGROWZを通じてプレイヤーに活躍の場を提供するということ。高校生が大会を通じて人間的な価値を育み、教育的な効果がある場にすること。そして、街作り団体を母体として始めているので、この街の活性化につながるモノを創造していければと考えて事業を展開しています。

事業を始めるにあたって、まずはeスポーツについて街の人に知ってもらう必要があります。そこで、メディアの方に声をかけました。するとテレビ信州の方が早速賛同してくださいました。いわく、若者のテレビ離れが進んでいるので、新しい事業を若者目線で展開していきたいです。また、担当の方は「そもそもテレビ局は街の文化を創るメディアなんだ」という強い思いをお持ちで、非常に共感していただきました。一緒にやっていきましょう、という話にはなりましたが、そんな折に新型コロナの問題が出てきてしまいました。

──大会はオフラインを想定されていたんですね。

金井 最初は自分たちの視野が狭く、長野県の高校生達が盛り上がってくれれば、ということでオフラインを考えていました。しかし、コロナの一件で集まることができないということになってしまったんですね。大変厳しいことになりました。

ならばeスポーツはオンラインでも楽しめるから、オンラインでやってみるか、と判断しました。コロナ禍の情勢を見て当分は変わらないだろうという雰囲気もありましたので、ではオンラインで対象を全国にと、路線を変えました。

──気軽に全国規模にしたように伺えますが、大会を一つ開くだけでも大変なことではないでしょうか。

金井 ただ、そこに「活躍したい」と思っている高校生だけをイメージしながら動いていたので、先のことはあまり見えていませんでした。高校生に光を浴びさせてあげたい、それだけ考えていました。

最初に選んだタイトルは、高校生に人気のあった『ウイニングイレブン』です。青年会議所のイベントで扱ったタイトルでもあったので、そのノウハウが多少でも活かせればと期待した面もあります。ただ、ゲーム内の技術的なところは分からないので、地元のプレーヤーから意見を集めレギュレーションを決定しました。ホームページも地元でつながりのある会社にお願いして、ようやく募集できるところまでこぎつけました。

しかし、大会をきちんとした形にするなら、ゲームメーカーの許諾を取らないといけません。つながりは何もなかったので、直接コナミ様に連絡したのですがうまくつながりませんでした。なので長野県内でeスポーツを普及している長野県eスポーツ連合の方を経由して、許諾をいただきました。それで、ようやくやりましょう!ということになったんですが……。

──何か問題が?

金井 どうやら、これだけでは魅力が足りないようなのです。(笑) 地方の名もない企業が、高校生限定のオンラインeスポーツ大会を実施するといっても、そんな程度だと「誰が見るの?」という感じなのでしょう。最初は、全然応募がありませんでした。

メディア広報やテレビ局でCMを流したのですが、高校生限定という部分と県内のウイニングイレブンをプレーしている選手がどのくらいいるのか把握ができておらず、これでは「ヤバいな」 ということになりました。打開策として、有名な人を呼ぼうという発想はまさに天啓でした。ゲストにメッス(YOUTUBER:Kiii所属)さんと、うでぃ/UDI(よしもとゲーミング)さんという方をお呼びして、お二人がTwitterでゲスト参加します!と流してくださったら、32人の定員があっという間に埋まってしまいました。

──最初に集まった32人は長野県以外からも参加があったのですか。

金井 全国各地から参加希望がありました。いっぱい応募があったので最後は抽選になりました。正直なところ32人でも上手く切り盛りできるのか?と不安でした。そして当日を迎えることになりました。

──イベント当日の進行はいかがでしたか。

金井 おかげさまで。事前準備にかなり時間を掛けまして、予備試験もかなりやりました。そして無事、本番を迎えることができました。

──eスポーツはトラブル対応も含めて“eスポーツイベント”のような印象がありました。

金井 当日はトーナンメント表を手で書いて、必死にみなさんに伝えながらタイムリーに進行していきました。正直、プレーヤーの方にとってはあまり良い大会ではなかったかもしれませんが、運営側としては何とかやり遂げた、という感じでした。

──GROWZのコンセプトとして「大会を通じて人間的な価値を育み、教育的な効果がある場を」ということでしたが、具体的な施策などはありますか。

金井 21年1月に開催した『Apex Legends』の大会では、大会を通して地球のことを考えてみましょう、という取り組みを実施しました。スポンサーに中部電力様が付いて下さったのがきっかけです。電力会社とeスポーツの共通の部分は“電気”というところです。電気がないとeスポーツはできない、という関係性があるわけです。その電気を「信州・長野県の豊かな水から産まれた環境に優しい電気でまかなう」をコンセプトにしました。環境に優しい電気で大会をやれば、それは地球や環境に配慮した大会になります。

会場の電気も全てその電力に切り替えるところから始まったのですが、これは参加者にとっても、気付きの機会になったと思います。「この大会はきれいな川の水から産まれた電気で運営されている」、とMCとともに呼びかけました。

──大会に参加しなかったら、環境に配慮した電力に触れる機会のない方もいたかもしれませんね。

金井 今後もこういうテーマを持って大会を開いていきたいと思います。身近なモノ、何気なくやっていることなどを立ち止まって見て貰い、そのモノを考え直したり、気づきの機会になったりする。eスポーツの大会をきっかけに、それが少しでも人のためになったり、世の中が良くなったりしているということに気付いてもらいたいです。イベントをきっかけに、そのテーマを参加者の皆さんに意識していただけるよう考えていきます。1月は環境に優しいeスポーツ大会でしたが、別のテーマでも継続的に取り組んでみたいと思います。

振り返ってみると今回、中部電力様がスポンサーに付いて下さったことはとても大きなことでした。自分たちの小さな大会に、大きな企業にスポンサーとしてご支援いただいたということは、自分たちのコンセプトが社会的に理解されたことのように思えます。スポンサーというのは広告効果とか経済的な利益をベースに付いて下さるものだと思うのですが、私たちはそれほど大きな団体でもないですから経済的利益というのはとても難しい。でも、社会的な利益はご提供できるようでありたいなと思っています。その点をご理解いただいて、今後もスポンサード契約を獲得していきたいと思っています。

──以降の大会でも何か計画されていますか?

金井 そうですね。まだオープンにはできないのですが、いろいろ考えております。今後、GROWZは高校生のプレーヤーが活躍する場であるとともに、高校生が何かを考えるきっかけになるような場として、テーマを持って運営していきたいと思っています。今後、さらに面白い大会になっていくでしょう。──継続的に続けていくという点で、運営費などの関係から収益は欠かせない要素かと思います。GROWZも含めたRe.road全体で、どのような収益構造になっているのでしょうか?

金井 打ち明けますと、少し“赤”です。ですから「立っていられるかどうか」というところなのですが、まずはしっかりした意志を持って事業構築していく段階で、気迫を持って頑張っております。頑張っている高校生がいる、それが我々の活動の原動力ですから。

そして当初、ふたりでやって来た会社ですが、一年半経ってから2人社員を雇用することができました。1人はぷよぷよの達人です。もう1人がウイニングイレブンを得意とし、何度も協力してもらう中で「自分はeスポーツで食っていきたい」と本人から話がありまして、今はヒアリングや調査などを担当してもらっています。この一年半でその人件費をきちんとまかなえる体制になったところです。

──継続のめどが立つというのは大きなことですね。

金井 そうですね。街作りという意味では雇用を拡げるという点も重要なことです。eスポーツが好きな若い人に対して、大好きなeスポーツの仕事でこの松本の街に雇用の場を作ることができたわけです。これは会社組織にした目的として本当に大きな成果です。引き続き雇用を拡大できるように頑張りたいと思います。サードウェーブやJHSEF(ジェセフ  全国高等学校eスポーツ連盟)、関係する皆様のありがたいご支援を支えに頑張っていきたいと思います。

──今、大会への応募は何人ぐらいになっていますか?

金井 私たちの大会は、32~64人ほどの規模で開催しております。大人数を集めて大会の時間を長くしてしまうのではなく、配信することを踏まえてゲームの盛り上がりが冷めないまま進めるためですね。雰囲気に応じて強いプレーヤーの動きにフォーカスするような形にしたいと思っています。100人以上の規模ですと、午前中から延々と対戦をやっていくような形になってしまいます。人数が多ければ良いか、ということでもないと思っています。

参加者1000人以上クラスのような大きな大会は、大きな組織でぜひ開催していただきたいです、全国高校eスポーツ選手権(主催:JHSEF・毎日新聞社 共催:サードウェーブ)とか。一方、私たちは気軽に参加できる高校生だけの大会ですので、力(りき)むことなく、フランクな感じで出場していだだきたい。優勝賞金ではなく、大会を通じて考えること、感じることを持って帰っていただければ幸いです。

──高校への取材を通して、高校生が実力をはかる機会が少ない、実力が拮抗している人と戦う機会がない、というお声は結構あります。そういう部分では小まめに開かれる大会というのは、かなり助けになっているはずです。

金井 そうですね。eスポーツの部活をしている高校生は何をもって実力を測れば良いのか、腕を上げれば良いのか明確には分からない、という悩みがあるようです。ですので、長野県内だけでなく、全国のeスポーツに取り組んでいる学校や生徒たちにアプローチしています。こういう大会があるので、良かったら参加して下さい、ということを知っていただきたいですね。高校単位で出来るようなゲームタイトルも増えてくれば大会をやりたいですし。「こういうタイトルで大会をやってもらえませんか?」というお問い合わせもかなりいただいています。

──特定のタイトルで活躍の場が欲しいという声ですね。

金井 多くの高校生に喜んでもらえる大会にしたいと思っていますが、健全な大会である・・というのが大前提です。例えば、APEXは若い人に人気がありますが、対象年齢があるんですよね。17歳です。16歳の高校生もいるので、配慮する必要があります。

──キリギリですよね?

金井 そうなんですよね。私たちとしても、大会はきちんとしたものにしていきたいわけです。高校生に何かを伝えたいなら、自分たちもきちんと運営していかなければなりません。プレーするにあたって条件があるものは、その条件を満たしている人しか出場させられません。

ゲームにも法律のほか、さまざまなコンプライアンスがあります。そこは、きちんと指導していくような形にしたいと思っているのです。

──地元に根差して活動をされていて、地元のメディアとも連携しているとなれば、行政からも何か反響がきているのでしょうか。

今のところようやくeスポーツという言葉が浸透し始めて、振り向いてくれるようになってきた感じです。熱い想いで部活をしている高校生がいる。そういう高校生の想いを後押しするのが、大人であり企業だと思っています。そういうのを組み立てていけば、絶対に行政は動いてくれると信じています。ただ、そこから支援がくるかというと、まだそこまでは至っていません。毎月地方のテレビのスポットCMで大会の様子を流しているので、多くの人にeスポーツの大会は認知されてきていますし、メディアでも毎月載せていただいているので知れ渡ってきているのは事実です。

──今後の展望としてはどのような形ですか。

金井 高校生同士でもっと早く簡単に試合ができるような仕組みを考えています。現状、1カ月1回の大会では回数として少ないですし、スピードも遅いと考えています。高校同士の対戦マッチングというのでしょうか。つながりを作り、毎週試合をすればどんどんみんな強くなっていきますし、やりがいも増して部活も活発になっていくのではないかと思うのです。本人達がものすごく頑張っているということが社会的なアクションとしてまわりの人に伝わり、見出してあげられるようなことがあれば良いなと思いますね。

毎週大会をやりつつ、月1回GROWZを開催して、年に1回全国eスポーツ選手権のような大会に出場する。そんな形になったら素晴らしいことだな、と。

──ゲームタイトルの選定の基準はどのようになっていますか。

金井 選定基準としては非常に単純で、高校生が多くプレーしているゲームタイトルということで選んでいます。まだ10タイトル(2021年3月時点)しか開催したことはないのですが、eスポーツ(ゲームタイトル)は幅広いです。まだまだ取り上げていないタイトルで頑張っている高校生もいることですし、いろいろなゲームタイトルを取り上げて応援していきます。

──高校生によるeスポーツを応援するなかで、先生方からの反響もあるかと思います。

金井 賛否両論あるな、と感じるところはあります。傾向として私立系、通信制、工業系の高校で多くの部活動が始まっています。いち早く導入していただいている学校では、多様性の尊重という点で実情を認識されています。

青年会議所という街作り団体での経験から思うのですが、eスポーツに限らず傾向として見えるのが、行政は多くの人が動けば絶対に振り向いてくれます。重要なポイントをしっかりおさえて、学校で導入する論理と人の動きが重なるという環境が大切です。行政の後押しも重なることで高校の導入が一気に加速するというような流れがくると信じています。そのためには、単純にeスポーツをする機会を作るだけでなく、周辺に加価値をつけることが重要だと考えます。

──周辺の付加価値というと、2月からeスポーツ英会話を事業として開始されましたね。

金井 eスポーツを通して英語を学ぶというのは、すごく良いと思ったのです。ゲームの中には英語がたくさん出てきますし、外国人とプレーしている高校生もたくさんいます。eスポーツ英会話、現在、この取り組みを鳥取県のeスポーツ協会の代表の方と展開し始めました。利用されているのは、小学生のお子さんが多いですね。元々は高校生をターゲットにしていたのですが、小学生のお子さんをお持ちの親御さんに響いています。

──小学生の親御さんですか。どのような背景があるのでしょう。

金井 これは私の仮説なのですが、中学校や高校で英語というと親御さんもお子さんも受験を意識してしまうので、試験勉強が中心になります。その点、小学生だと親御さんも「まだのびのびとやらせてあげたい」という精神的余裕があり、好きなことを通じて英語が身についたら一石二鳥という考えがあるのだと思います。多くの申し込みを頂いています。現状は対象エリアを長野県内に絞っていますが、地元のフリーペーパーなどで特集をしていただくなどすると、かなり反響がありますね。

──どんな仕組みやスタイルで英語を勉強されるのですか?

金井 ゲームタイトルは「フォートナイト」です。3人で1チームになって頂いて、そこに外国人の講師が1人つきます。1人で申し込んでも、きちんとチームをコーディネートしますよ。外国人の先生と会話しながらゲームをプレーする。その間、話して良いのはもちろん“英語だけ”です。分からないところは先生が教えてくれます。これで1コマ50分のレッスンを、週に10回ほど実施します。受講生に反応を伺うと「3カ月ほどで結構話せるようになりそうだ」とおっしゃる人もいますね。

──そんな早いペースで話せるようになるのでしょうか?

金井 最初はお互いの自己紹介から始まって、基本的な会話のレクチャーがあります。そしてフォートナイトはみんな一緒に動かないと成立しないゲームですから、どこにいくか、何をするかなど、どんどん会話する必要があります。

──勝つためには英語を覚えるしかない、と。

金井 まさにそうですね。集中力も必要ですし、興奮してアドレナリンも分泌されます。そんな状況で、英会話の勉強したことありますか(笑)

──それはひょっとすると、学校の英語の授業より実戦的な内容ではないですか?

金井 そうですね。語学は座学だけでは通用しませんから。しゃべれる、というところを意識して運営しております。授業だと“英語”という感じになりますが、ゲームだともっと感覚的に使えるようになる必要があります。敵がいるか確認するために耳を澄ませていなければいけないですし、その上英語での会話ですから、すごく体力を使います。人為的ではありますが、ある意味、極限の環境では英語の修得も早いのかなと思います。

──ほかに今後の事業として考えていらっしゃることはありますか?

金井 私たちが過去開催した大会のゲームは10タイトル。プラットフォームもPCや家庭用ゲーム機、開催した場所もさまざまです。そういう意味で1年半の間であらゆるケースのノウハウを蓄積してきました。一方、大会を開催・運営できる会社はたくさんあるのですが、タイトルや開催する場に制約があるところが多いようなのです。そこで、当社が過去に開催した大会の情報を見た専門学校などから、「教えて欲しい」というお声をいただいています。学校の中にはプロを目指すカリキュラムを構築したい、というニーズもあります。

そこで、私たちの技術的な側面をお伝えしていきたいと思っています。音響や映像、大会の様子を配信する周辺技術は、そのままイベントの技術になっているわけです。応用すれば、eスポーツ以外のイベントの開催もできます。将来、多くの学生さんがeスポーツの周辺でプロとして活躍していただければ、という想いがありますので、お問い合わせには積極的にお応えしていきたいと思っています。これをサービスとして体制を整えていきます。

──高校eスポーツの普及にも努めていらっしゃるとか。

そうですね。サードウェーブさんやJHSEFさんにお声がけいただきまして高校のeスポーツ普及支援の活動をしています。「高校eスポーツ部支援プログラム」には共感しておりまして、モデルケースを長野県とその周辺に増やしていき、全国に響かせていくと素晴らしいモノが生まれるに違いないと夢を見ております。

具体的には、こちらからお願いする形で山梨県と新潟県を担当させていただきました。実際に足を運んで高校をお尋ねしまして、先生にお会いして部活などへの支援プログラム導入に向けたお話しをさせていただいています。

──eスポーツの未来にどのような夢を描いていらっしゃいますか?

eスポーツはグローバルな分野ですから、さまざまな人とつながれますし、多様な人と出会えるという性質があります。例えば、政治的に壁や対立のあるような国との間でも、企業の現場や個人同士のつながりの中では隔たりなく交流しています。そういう人同士、そういう企業同士で交流を深めていけば、国家間の壁を克服したり、対立を解決していけるのではないかと信じています。その国家の印象がいくら悪くても、そこにいる全ての人や企業が険悪な関係ではないわけです。

ゲームでは知らないうちに海外の方と一緒に戦っている場面もあるわけですから、eスポーツは壁や対立と無関係なところで民間同士の交流を深めるには非常に適していると思います。“世界平和”などというとすごく大げさですが、大きな可能性を感じます。eスポーツを通じて目指す世界平和。あり得なくは、ないはずです。