店舗関係者の法的責任

では次に、こんなことをしでかすA君を雇ってしまったホワイト亭(企業側)の責任はどうなのだろうか? 採用担当者、新人教育の担当者、先輩や同僚、店長など、たった1人のアルバイト店員にも多くの人間が関わっている。

刈谷弁護士は「まず関係者に刑事責任はありません。民事上の責任についても“行為者に対して損害賠償を請求する”のが大原則です」と、企業側の人間については明確な賠償責任を否定する。ホワイト亭のチェーン本部が店舗の先輩スタッフに「お前の教育が悪いから後輩が冷蔵庫に入ったりなんてするんだ!」と怒ったところで、それは本部の責任でもあるからだ。ましてや採用担当者が「ああ、こいつは店舗に配置したらいずれ冷蔵庫に入るだろうな」などと予想できるはずもない。

ただし、A君本人が冷蔵庫に入っている現場を目撃したにも関わらず、店長が見て見ぬフリをしていたならば監督責任が生じてくる。

また、一連のバイトテロ事件は基本的に文章と写真がセットになっている。つまり冷蔵庫に入ったA君以外にも、それを止めずに一緒になって面白がり、撮影役を引き受けた同僚がいたはずだ。仮にその同僚をB君と名付けよう。

こんな場合、B君は犯行の幇助役どころか「たとえ冷蔵庫に入っていなくても主犯と完全に同じ賠償責任を負います」と刈谷弁護士は言う。仮にホワイト亭からの訴えが通り、400万円の損害賠償が確定したとすれば、A君とB君の支払い義務は200万:200万ではない。2人とも満額400万円の支払い義務を負うのだ。

「法律で定める損害賠償請求は“被害者の保護”を優先します。総額400万円がホワイト亭に支払われるまで両名の債務は消えません。その負担割合には関知しませんので、A君とB君が話し合って勝手に決めてくださいということです」。

たしかに総額400万円の判決に対して、200万:200万だけの支払いに固定してしまうと、片方が債務の半分(100万円)を踏み倒せば、ホワイト亭は最大でも300万円しか受け取れなくなる。これでは“被害者の保護”原則に反するから、まずは両名に満額の責任を負わせようというのだ。「俺は撮影しただけなのにどうして!?」という同僚・B君の叫びは誰にも届かない。

 

犯人を育てた両親の法的責任

バイトテロ事件のニュースを聞くたび、誰もが考えるであろう「どんな環境で育ったらこうなるのか?」「親の顔が見てみたい」。二十歳前後にもなって幼児レベルの判断しかできなかったA君を育てた両親に、法的な責任は生じるのだろうか?

刈谷弁護士は次のように話す。「両親には責任無能力者に対する監督義務がありますが、その境界は判例では小学6年生から中学1、2年生くらいです。今回のようにアルバイトできる年齢になれば独立した“別人格”と見なされるのが普通で、育て方が悪いからといって損害賠償の請求はできません」。

ただし親にも実害が一切及ばないわけではない。ご近所から「あそこの息子さんが…」と陰口を叩かれるのはもちろん、金銭的な出費もあり得る。

「加害者が支払い能力の低い若者だった場合、たとえ高額の請求が裁判で認められても実際に支払われない可能性が出てきます。それを見越して“本来なら2000万円の賠償請求ですが、ご両親を保証人にして500万円、10年分割の支払いにしませんか?”といった和解で決着を付けることが多いですね。私たちも仕事をしていて、“回収の可能性”は一番気にするところですから」と刈谷弁護士は語る。A君自身は巨額の賠償金を回避し、ホワイト亭側も無難に回収可能な金額を得られるわけだ。

なお、和解に持ち込まなくても、アルバイト採用時には両親が「身元保証人」になっているケースも多く、その場合は保証人としての立場からごく自然に両親が損害額を肩代わりする結果となる。

このように、たとえ直接の賠償責任はなくても、バカ息子を世に放った“製造者責任”は両親にも重くのしかかるのだ。