ドラマにはいろんなタイプの作品がある。視聴率が高いドラマ、クオリティーが高いドラマ、楽しめるドラマ、バカバカしいドラマ……。多くの人が見ている視聴率の高いドラマが必ずしも質の高いドラマとは言えないし、バカバカしいドラマが面白い場合もある。テレビというのは良くも悪くも大衆的なものなので、番組の質と視聴率は一致しないし、それを楽しむ個人の嗜好もまたそれぞれなのだ。 

今年の10~12月期は、いつも以上にさまざまなタイプのドラマが混在していて、バラエティーに富んでいると思う。その中で個人的にやたらと楽しんで見ているドラマがある。ムリに他人にススメようとは思わないが、じつは次回の放送が待ち遠しくて仕方がないというタイプのドラマだ。それは、TBS系金曜10時から放送されている深田恭子主演の『専業主婦探偵~私はシャドウ~』。こういうタイトルの作品はあからさまにB級臭が漂うので、最初から見ない人も多いんじゃないだろうか。実際、視聴率は10%前後で、そんなに話題にもなっていない。

このドラマの内容を一言で説明すると、ドジで不器用な専業主婦がひょんなことから探偵になり、愛する夫のために影となって奮闘。やがて強い女性へと生まれ変わっていく、という話だ。まあ、こういう説明で「面白そう! ぜひ見たい!」という人はあまり多くないと思う。そんなに斬新な切り口でもないし、中途半端なフィクション感が「ドラマでありがちだよね」という、見てないのに見たような評価に収束してしまうからだ。

ただ、実際に見てみるとこれが意外と面白くて、ハマってしまう。原作は、昨年の秋まで女性コミック誌「YOU」に連載されていた粕谷紀子の『私はシャドウ』。このコミックをドラマ化する上でのアレンジの仕方に工夫があって、個人的にはそこをかなり評価している。

 




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じつは、原作の序盤は夫婦関係もシビアで、後半は殺人やら毒薬栽培やらも出てきて、そのままドラマにするにはキビシイ内容だった。そもそも、タイトルに主婦という文字が入っていないことからも分かるように、原作では主人公がずっと主婦というわけでもない。それをドラマでは『専業主婦探偵』というタイトルにして、主人公に深田恭子を起用。全体的にコメディテイストにしているのだ。このアレンジがいい方向に作用していると思う。 

深田恭子という女優の評価に関しては、極端な賛否両論があるかもしれない。数々の女優賞を受賞しているものの、いつまでたってもしゃべり方がたどたどしいし、一般的な“上手さ”とは異質の演技をする人なので……。でも、この人はやっぱり替えのきかない女優だと思う。見る人によって好き嫌いはあるにしても、深田恭子の魅力は深田恭子にしか出せない。

 自分が深田恭子をハッキリと認識したのは、1997年の『それが答えだ!』だった。12人しかいない田舎の中学校のオーケストラ部に世界的なマエストロ(三上博史)がやってくるという話で、深田恭子はその12人の中のひとりだった。翌年の1~3月期、鈴木保奈美主演の『ニュースの女』という作品にも出てきて、やっぱり瞳の大きい可愛い子だなあ、と思っていたら、同年の7~9月期に『神様、もう少しだけ』のヒロインに抜擢され、一気にブレイク。大きな瞳から流れる大粒の涙は、深田恭子の象徴のようになった。

 




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でも、彼女の本当の魅力が発揮されるようになったのは、コメディをやるようになってからだと思う。ドラマでは2002年の『リモート』あたりから本格的にやっていたが、2004年の映画『下妻物語』で一般的にもそのセンスは知られるようになった。その後も『富豪刑事』『未来講師めぐる』『華麗なるスパイ』、映画『ヤッターマン』など、さまざまなコメディに出演し、演じるキャラクターの幅も広がっている。

 深田恭子がコメディをやる場合、あのたどたどしいしゃべり方にその効果があるのか、アニメから飛び出してきたような非現実感が漂う。それがフィクションにハマるんだと思う。もちろん、コメディにも切ないシーンはあるので、そこで大粒の涙を流されると一気にリアリティが増す。その振り幅の大きさがコメディにおける彼女の魅力のような気がする。



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とにかく『専業主婦探偵』は、深田恭子の個性を活かしてコメディテイストにしたところが成功していると思う。結果、内容は原作と大きく変わっていて、深田恭子が演じる芹菜の夫・武文(藤木直人)のキャラクターもやわらかくなっているし、芹菜が働く探偵事務所の所長・陣内(桐谷健太)の過去もハードなものではなくなっている。でも、メインの脚本は『やまとなでしこ』『スタアの恋』『ハケンの品格』などの中園ミホなので、オリジナル部分のストーリーも安定感があって見やすいのだ。

あと、スタッフもいい。プロデューサーの磯山晶とチーフディレクターの金子文紀のコンビは、あの『木更津キャッツアイ』や『タイガー&ドラゴン』を作った人たちだ。同じ宮藤官九郎脚本の『池袋ウエストゲートパーク』は堤幸彦がチーフディレクターだったが、金子文紀も数話演出していたし、プロデューサーはやはり磯山晶だった。とにかく笑って泣ける話を作らせたらピカイチの人たちなのだ。今期、テレビ朝日系の金曜夜に放送されている宮藤官九郎の『11人もいる!』も、この人たちが撮ったらもっと面白くなったのになあ。

もうひとつ、『専業主婦探偵』は主題歌もいい。Perfumeの「スパイス」という曲で、中田ヤスタカがこのドラマのために書き下ろしている。この曲が盛り上がるシーンでかかるのだが、ドラマの雰囲気にもあっていて、「知らないほうがいいのかもね?」のところはドラマを見ていると本当にアガる。これも中毒的にまた次回を見たくなる要因のひとつだ。

 

さて、ドラマはいったいどういう結末に向かうのか。初回の冒頭は3ヶ月後のシーンから始まっていて、成長した芹菜(深田恭子)が誰かを救い出しに行くところだった。イメージ的なものという解釈もできるが、もしあそこにつながるなら、誰を救い出しに行ったのか。そのシーンでも“主婦”と宣言していたので、やっぱり主婦であることは変わらないと思う。乗っていた車も3ヶ月前のものと同じだったので……。

ただ、ドラマ全体のエンディングがこの3ヶ月後のエピソードとは限らないので、どうなるかは分からない。いずれにしても、ハッピーエンドであることを誰もが納得できるような展開と結末にしてもらいたい。

 

【関連リンク】
専業主婦探偵~私はシャドウ~』公式ホームページ

たなか・まこと  フリーライター。ドラマ好き。某情報誌で、約10年間ドラマのコラムを連載していた。ドラマに関しては、『あぶない刑事20年SCRAPBOOK(日本テレビ)』『筒井康隆の仕事大研究(洋泉社)』などでも執筆している。一番好きなドラマは、山田太一の『男たちの旅路』。