10~12月期の連ドラは、久しぶりに高視聴率作品が多く出ている。日テレ系土曜9時の『妖怪人間ベム』もそのひとつで、初回は18.9%(関東地区)だった。

この枠では、2010年4~6月期に、嵐の大野智主演で『怪物くん』が放送されていた。『怪物くん』といえば、もちろん藤子不二雄Aによる少年漫画。雑誌(少年画報)で連載が始まったのは1965年で、1968年4月に最初のアニメ(モノクロ版)がスタートしている。
連ドラ版『怪物くん』は、平均視聴率こそ14%弱だったが、話題性はあった。その証拠に、連ドラ終了直後と今年の10月15日にスペシャルが放送され、11月末には映画公開も決まっている。制作側とすれば、ある種の金脈を発見したというところか。

で、今期は『妖怪人間ベム』である。脚本は『怪物くん』と同じ西田征史が担当し、10月22日に第1話が放送された。

念のために説明しておくと、『妖怪人間ベム』というのは『怪物くん』と同じ1968年に放送が開始された全26話のアニメ。ベム、ベラ、ベロという3人の妖怪人間が、本当の人間になることを夢見ながら悪と戦う物語だ。ちなみに、この1968年には水木しげるの『ゲゲゲの鬼太郎』や『河童の三平』もアニメがスタートしていて、世の中は妖怪だらけだった。

   

 










 
そんな43年前のアニメだが、『妖怪人間ベム』の認知度は、現代でもかなり高かったと思う。1993~95年には『妖怪人間ベムRETURNS』というコミックが「月刊少年ガンガン」に連載され、2006年にはリメイク版のアニメがアニマックスで放送された。また、「早く人間になりたい」という有名なフレーズはたびたびCMでも使われ、最近もアサヒビールが主題歌を引用しながら、「早く爽快になりたーい」というパロディを谷原章介に言わせていた。

ところで、この作品に登場するベム、ベラ、ベロという妖怪人間たちが、どうして生まれたかという設定だが、じつは43年前のアニメを見ただけでは今ひとつハッキリしない。ただ、当時のプロデューサーのインタビューなどから、科学的な実験により誕生したということで間違いないようだ。つまり、正確には妖怪人間ではなく、人造人間なのだ。

普段は人間と同じような姿をしているが、悪と戦う時は本来の妖怪に似た姿に戻り、戦闘能力がアップする。彼らはいつか人間になれると信じて悪と戦うものの、その醜い姿ゆえに、人間たちからは嫌われ、感謝されもしない。そこが何ともせつないというか、シニカルな切り口で、エピソードによってはグッとくる内容になっているのだ。

この設定と世界観を表すものとして、アニメの冒頭にはこんなナレーションが流れていた。

「それは、いつ生まれたのか誰も知らない。暗い音のない世界で、ひとつの細胞が分かれて増えていき、3つの生き物が生まれた。彼らはもちろん人間ではない。また、動物でもない。だが、その醜い身体の中には、正義の血が隠されているのだ。その生き物、それは、人間になれなかった妖怪人間である」

このフレーズは今回の連ドラでもそのまま踏襲されていて、なんと46年前のアニメでベムの声を担当していた小林清志(「ルパン三世」の次元大介の声をやっている人)に言わせるというオシャレなことをしている。ナレーションのバックで流れる映像も、当時のものをかなり再現していて、製作者のやる気が感じられた。

ただ、この映像の最後、カメラ側に向かって妖怪人間のひとりが爪で引っかく部分は、ベロからベムに変更されている。これは、昔のアニメが「妖怪人間ベム」というタイトルでありながら主人公はベロだったのに対し、今回の連ドラはストレートにベムが主人公だからだ。

他にもいろいろ変更点はあるが、とりあえずベムたちが何者かによって作り出されたらしいことは初回でも描かれ、その謎を解きながら人間になる方法を探すというのが縦軸となって話は進むようだ。

さて、肝心の配役だが、ベムはKAT-TUNの亀梨和也、ベラは渡辺謙の娘・杏、ベロは『マルモのおきて』で芦田愛菜の双子の弟役を演じた鈴木福が起用されている。この企画の詳細が発表された時、個人的にはベラの杏がハマるのではないかと思った。あの長い手足はベラに通じるものがあったので……。

実際、初回を見るかぎり、杏のベラは色っぽさも加味されて、なかなか良かった。昨年の『怪物くん』でもオリジナルのキャラクター、デモリーナを稲森いずみがセクシーに演じたことで視聴者の幅を広げた気がするけど、今回の杏も貢献度は高いと思う。

福クンのベロは無条件で可愛い。人間の姿の時は頭にゴーグルを乗せ、腰にポーチをつけているという設定になっていて、それがまた全体のスタイルと合っていて可愛い。10歳程度の子供の姿をしていたアニメ版より幼いけど、杏や亀梨和也とのバランスを考えると丁度いいと思う。

ベラやベロに比べると、亀梨和也のベムが一番アニメ版から離れている。スキンヘッドではなく、銀髪だったし……。ただこれも、オリジナルだと割りきって見ると、そんなに悪くなかった。とにかく、3人のバランスがいいんだと思う。初回は3人で食事をする場面があり、ベムがベロに箸の持ち方を注意したり、人間っぽいやり取りを3人が楽しんだりするシーンがあったけど、見ていて微笑ましかった。

ちょっと残念なのは、妖怪の姿になった時のベラ。口元を中心に表情が少なくて、ベラというよりマグマ大使っぽかった。髪型も動きがなく、顔が大きく見えすぎてしまうところもツライ。人間の姿の時はいいだけに、かなりもったいない気がした。

でもまあ、メッセージがだいぶ子供向けだった『怪物くん』より大人の視聴に耐えうる要素はあるし、細かいところは気にせずに見れば新しい『妖怪人間ベム』として楽しめそう。視聴率の推移は……、どうかなぁ? 妖怪人間は妖怪の姿になると能力がアップするので、もし視聴率が下がってきたら亀梨和也がベムの姿になって、『Going!』で再びホームランに挑戦するという番宣もあるかも!?

   

 

『妖怪人間ベム 初回放送(1968年)オリジナル版DVD-BOX<通常版>』

ビクターエンタテインメント 16,632円

たなか・まこと  フリーライター。ドラマ好き。某情報誌で、約10年間ドラマのコラムを連載していた。ドラマに関しては、『あぶない刑事20年SCRAPBOOK(日本テレビ)』『筒井康隆の仕事大研究(洋泉社)』などでも執筆している。一番好きなドラマは、山田太一の『男たちの旅路』。