「マグダラなマリア」を一言で表すなら、"ミュージカルテイストのコメディ劇"といえばいいだろうか。原作・脚本・演出・音楽を一人でこなすのは、湯澤幸一郎。日本の演劇界にその名を轟かせる天才演出家であり、「マグダラなマリア」は彼の才能を存分に堪能できる場でもある。

本シリーズの主人公は、歌手であり女優でもあり、さらに高級娼婦でもある美女、マリア・マグダレーナ。演じるのはマリア・マグダレーナ自身……ということになっている。どこか湯澤幸一郎の面影を感じるのは気のせいである。たぶん。

そんなマリアが店主を務める高級娼館「魔愚堕裸屋」には、個性豊かなキャラクターが勢ぞろい。マリアの娼婦仲間であり親友でもあるグレイス(津田健次郎)や、執事のコバーケン(小林健一)などなど、一癖も二癖もあるキャラクターたちが、毎回抱腹絶倒のドタバタ劇を繰り広げるのだ。

 

本シリーズの最大の特徴は、出演陣が全員男性であるということ。女性も、少女も、老婆も、すべて男性が演じている。不思議なもので、テレビでは絶対放送できないような強烈なシモネタや毒混じりの風刺ネタが出てきても、それが女装したイケメンの口から発せられると何となく笑い飛ばせてしまうのだ。そしてまた、湯澤幸一郎が書く脚本には遠慮が一切ない。各方面に気を遣ったぬるい笑いではなく、ブラックで、世の中を一刀のもとに切り捨てるような鋭い笑いがそこかしこに散りばめられている。これはテレビなどプッシュ型のメディアでは絶対にできない笑いだ。舞台だからこそ、できるのだ。高いチケット代を払い、わざわざ劇場に足を運ぶ意味はここにある。

話が逸れたが、シリーズ5作目となる「マリア・マグダレーナ来日公演『マグダラなマリア』 ~ワインとタンゴと男と女とワイン~」でも、そうした"湯澤節"はたっぷりと堪能できる。