今回の舞台は「魔愚堕裸屋」を離れてアルゼンチンへ。おなじみのマリア、グレイス、コバーケンに加え、演歌歌手夫婦の黒海なぎさ(鯨井康介)と黒海ピロシ(別紙慶一)、かつて映画『つっぱりペーター』シリーズで活躍した名子役ペーター(豊永利行)らシリーズの人気キャラクターが再登場し、さらにマリアがかつて憧れた大女優カミーナ(岡幸二郎)も登場。とある事件をきっかけに、マリアの知られざる過去が少しずつ明らかになっていく。いつも通りミステリの要素を織り交ぜたストーリーは、謎が謎を呼ぶ巧みな構成で、最後まで目が離せない。登場キャラクターはレギュラー、準レギュラーが多いが、シリーズ作品を見ていなくても問題なく楽しめるのはさすがである。

 

また、「マグダラなマリア」のもう一つの大きな魅力である「歌」に関しても大いに期待してもらっていい。というのも、あのマリアが憧れたという大女優カミーナの登場に加え、今作では「歌」そのものがストーリーの大きなカギを握っているからだ。

マグダラシリーズを見たことない人のために説明しておくと、湯澤氏……じゃなかった、マリア・マグダレーナ嬢は、おそるべき歌唱力を備えた日本では珍しいカウンターテナー歌手である。これは、"そういう役どころ"ではなく、本当にそうなのだ(ややこしい……)。

この"圧倒的な歌声"を生で聴けるというのも、テレビや映画にはない、演劇ならではの強みである。もちろんマリア以外の出演者も歌唱力に関してはかなりの実力者ぞろいだが、いかんせんマリア・マグダレーナの歌声がすごすぎてかすんでしまう。

筆者は舞台の楽しみ方としてよく言われる「アドリブ」や、「場の空気の共有」「役者の成長」などはあまり重視しないが、じゃあなぜ「マグダラなマリア」をDVDではなく毎回劇場で見るのかというと、一つにはあの歌声を直接聴きたいからなのだ。

「マグダラなマリア」は、それまで演劇に興味のなかった筆者を一発で虜にしたすさまじい作品だ。たしかに演劇のチケットは高いし、見に行くためにスケジュールを合わせるのも大変だろう。しかし、それだけの価値は絶対にある。なぜなら、自主規制が進んでつまらなくなったエンタメ業界の中で、今もっとも面白いのは演劇だからだ。

 

マリア・マグダレーナ来日公演「マグダラなマリア」~ワインとタンゴと男と女とワイン~

(c)湯澤幸一郎/「マグダラなマリア」製作委員会

歌手であり、女優であり、ついでに高級娼婦でもある華麗な美女、
マリア・マグダレーナが繰り広げる芝居・歌・トークなどなど、
大人なお嬢様限定(!?)のエロティシズムと耽美にあふれたステージ。待望の新作公演第五弾!

アルゼンチン公演の為ブエノスアイレスにやってきたマリアさん一行。旧友のワイナリーのおカミを訪ね、楽しいひと時も束の間、
身の毛もよだつ様な事件に巻き込まれてゆくのだった…。

■公演期間:2012/11/30(金) まで
■会場:サンシャイン劇場 (東京都)
チケット購入はコチラ
[ http://ticket.pia.jp/pia/event.do?eventCd=1241191&afid=681 ]

やまだい・ゆうき 映画、漫画、ゲームなどエンターテインメント関連の記事を中心に執筆するフリーライター。飲料では特にコーヒーとカフェオレをこよなく愛しており、これまでに数百もの缶コーヒーの感想を記録している。ブログ