■連ドラ向きだった[有功・家光篇]
連ドラの[有功・家光篇]は、文字通り、三代将軍・家光の時代を描いた内容だった。この時代に赤面疱瘡が広まり、本来の将軍・家光(男性)は、赤面疱瘡によって死んでしまう。そこで家光の乳母である春日局が、自分の息子である稲葉正勝を影武者に立てながら、家光のご落胤である千恵という娘を将軍に据える。千恵が跡継ぎさえ産めば、何事も無く将軍家は存続すると考えたわけだ。これが大奥の男女逆転の始まりだ。
千恵=家光を演じたのは多部未華子、春日局を演じたのは麻生祐未。サブタイトルにも入っている有功というのは、春日局が家光に跡継ぎを産ませるため、強引に大奥へ入れた僧侶。これを堺雅人が演じた。ちなみに、有功は家光からお万と呼ばれていたが、お万の方は実在する人で、原作・ドラマの設定と同じように、慶光院の院主から側室になっている。
この[有功・家光篇]は、過酷な運命をたどることになった有功と家光の究極の愛がメインとなっていたが、とくに家光を演じた多部未華子は、女優として一皮 むけたような熱演だったと思う。柴咲コウの吉宗のあとだっただけに、放送前はやや将軍としての迫力に欠けるのではないかと心配していた。でも、初めて表に 姿を表し、自分が女であることを家臣たちの前で宣言するシーンなんかは、本当に迫力があって格好良かった。終わってみればベストキャスティングだったと思 う。
過酷な運命を受け入れていくという部分では、有功を演じた堺雅人も良かった。僧侶ということで、真面目で温厚な性格の役だったが、自分以外の側室も受け入れなくてはならなくなった家光を想い、嫉妬に苦しむ姿への変化はかなり見応えあった。家光にしても、有功にしても、最初は自分の運命を呪い、絶望するところから始まるのだが、そこから相手を思いやるまでに至るには、さまざまな葛藤を経なくてはいけないし、時間もかかる。そういう意味では、この[有功・家光篇]が連ドラで作られたのは良かったと思う。
終盤に有功が自分から家光に褥を辞退させて欲しいと願い出る場面で、家光がそれを受け入れ「そなたもわしも、なんと遠くまで来てしまったことか」と言うセリフがあったが、あの場面などは1クールで映像化していたからこそ説得力の出るシーンだったと思う。
さらに、2人の運命を翻弄した春日局の覚悟もしっかりと描けていたと思う。とくに、父親が明智光秀の重臣で、戦国時代の混乱を生き抜いてきた春日局が、戦のない世を維持するために徳川将軍家の存続に固執した部分などは、キャラクターを明確にしていた。老婆までを演じた麻生祐未も見事だったと思う。この春日局がどっしりしていたことで、有功と家光の関係もより切なく描けたと思う。
■フジテレビ版にも登場していた御右筆の村瀬
[有功・家光篇]では、第8話で病床の春日局が村瀬に「没日録」の記録を命じるシーンもあった。村瀬を演じていたのは尾美としのり。最初は有功のお世話係として登場していた。この村瀬は架空の人物のはずだが、じつは2003年6~9月期にフジテレビで放送された、スーパー時代劇『大奥』でも村瀬という御右筆は出てきていた。
この作品では、岸田今日子がナレーションを務めることがちょっと話題になった。それは、1983年4月から1984年3月まで同じくフジテレビで放送された『大奥』でも、岸田今日子がナレーションを担当していたからだ。20年経ってまた岸田今日子の語りが聞けるということで、ドラマファンは喜んだのだが、その2003年版での岸田今日子の役が、御右筆の村瀬だった。
村瀬は、映画の[水野・吉宗篇]でも、ナレーションとして登場していた。声を担当していたのは大滝秀治さん。つまり、[有功・家光篇]の尾美としのりは、大滝秀治さんの若い頃を演じていたことになる。もし、吉宗時代の続編が作られるなら、大滝秀治さんが村瀬を演じるはずなのだが、2012年10月に亡くなってしまったので、それはもう叶わない。男女逆転『大奥』の映像化に関しては、このことが残念で仕方がない。
ちなみに、連ドラの[有功・家光篇]で描かれた時代は、フジテレビのスーパー時代劇シリーズでいうと、2004年10~12月期に放送された『大奥~第一章~』にあたる。このドラマでは、春日局を松下由樹が、家光を西島秀俊が演じていた。お万の方も登場していて、こちらは瀬戸朝香が演じている。他にも、[有功・家光篇]ではKAT-TUNの田中聖だったお玉は星野真里、窪田正孝がやっていたお楽は京野ことみ、市川知宏がやっていたお夏は野波麻帆が演じていた。2つの作品の同一人物を比べながら見てみると、なかなか面白いかもしれない。