ステージで見るよりも小柄な印象。でもその小さな身体からつねにエネルギーが奔り出る、溌剌と明るい人だ。船舶免許を所持して海を愛するアクティブな指揮者でもある。指揮者・三ツ橋敬子に聞いた。
10月の「アジア オーケストラ ウィーク」では東京フィルを指揮する[6日(水)東京オペラシティ]。没後5年の作曲家・冨田勲へのトリビュートという独創的なプログラムだ。
「冨田先生には生前に一度だけお目にかかったことがあります。物静かに、でもとても熱心に音楽を語られる方で、その情熱に引き込まれる感覚でした」
冨田勲(1932~2016)は1974年にシンセサイザーによる『月の光』を発表して日本人として初めてグラミー賞にノミネート。シンセ作品の世界的巨匠として活躍する一方、TV・映画の音楽から純音楽まで夥しい数の作品を残した。
「音色、つまり空気感を音にするアプローチに長けた作曲家だと思います。どんな音色・質感で描くのかというロジックが、ものすごくしっかりしている。奏法の効果や音の組み立て方の操作にフォーカスする現代の音楽とは一線を画しているというイメージがあります」
曲目は以下のとおり。
冨田勲:交響詩《ジャングル大帝》(2009年版)
ドビュッシー:《月の光》
ストラヴィンスキー:《火の鳥》(1919版版)
冨田勲:《ドクター・コッペリウス》第7楽章「日の出」Rise of The Planet 9より
《ジャングル大帝》は手塚治虫のアニメ(1965)の音楽による管弦楽作品。《コッペリウス》は生前の冨田の構想に基づき補完された遺作で、終楽章「日の出」は先の東京オリンピック開会式の聖火点灯シーンでも流れた。
「火の鳥が象徴する不死鳥=蘇るというテーマが、演奏会全体の核になっています。《ジャングル大帝》の陽が昇る情景から始まり、月の光を挟んで、闇から始まる《火の鳥》。そして最後に「日の出」で、本当に感動的なクレッシェンドから、また陽が昇ります。ひとつの大きな波を作って希望に向かうストーリーです」
映像的なイメージを軸に構成されているから、誰もが音楽の世界に入り込みやすいはず。とくに《ジャングル大帝》では名バリトン大山大輔の歌と語りが入る。「物語の温度や空気感をさらに具体的に感じていただけます」。
「冨田先生の音楽が、日本の遺産として受け継がれるべきものであることを、みなさんと一緒に認識していけたらいいなと思っています」
(宮本明)