新国立劇場オペラ「シモン・ボッカネグラ」 撮影:堀田力丸 提供:新国立劇場

11月15日(水)初日の新国立劇場のヴェルディ《シモン・ボッカネグラ》(新制作)。開幕直前、ゲネプロを取材した。

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その音楽の素晴らしさを多くの識者たちが特筆するのは伊達ではない。オーケストラの短い導入部。穏やかで慈しみ深い音の海がいきなり心を摑む。全編を濃厚に彩る管弦楽は大野和士指揮の東京フィル。

低声歌手たちが活躍する作品だ。題名役シモンのロベルト・フロンターリ(バリトン)は貫禄。派手なアリアはないが、迫真の声の演技で、愛と平和に生きるがゆえの英雄の孤独を描き出す。政敵フィエスコのリッカルド・ザネッラート(バス)、悪役パオロのシモーネ・アルベルギーニ(バス・バリトン)。個性の異なる低音の魅力が満開で、なんとも渋いかっこよさ。

主役級唯一の女声はイリーナ・ルング(ソプラノ)。新国立劇場でも《椿姫》や《ルチア》を演じているが、今回は華やかなレッジェーロより、リリコの豊かでこまやかな表情が、シモンの娘アメーリアの優しく強い心の表現にフィットしていた。第1幕で父シモンと再会する二重唱のドラマは圧巻。

そのアメーリアの恋人ガブリエーレ役のルチアーノ・ガンチ(テノール)は、コロナ禍の2021年に《ドン・カルロ》《蝶々夫人》がキャンセルだったので、待ちに待った新国立劇場初登場。トゥッティでも突き抜けてくる輝かしい声は、いまが旬のテノールのポテンシャルをまざまざと見せつけて爽快だった。

演出はエクサン・プロヴァンス音楽祭総監督のピエール・オーディ。著名な現代美術家アニッシュ・カプーアとのタッグが生んだ舞台は、(プロローグを除いて)逆さに吊るした火山の下で展開する。これは古代ギリシャの哲学者エンペドクレスに触発されたものという。エトナ火山のほとりで孤独に死と向き合い、ついには火口に身を投げたその生涯を、シモンの孤独に重ね合わせた(オーディはさらに、火口は女性性の象徴でもあると語っている)。
舞台はその火山が放つ赤と黒、そして物語の舞台であるジェノヴァ国旗の赤と白が象徴的に支配する。プロローグで黒く這いずり回る民衆や、第1幕フィナーレで白と黒に分かれた同じ顔のクローン議員たちがショッキング。ラストの不吉な黒い余韻も印象的だ。新国立劇場では初上演の演目。「満を持して」の充実の出来栄え!

公演は11月26日(日)まで。
(宮本明)

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