神奈川県を本拠地とする唯一のプロ・オーケストラとして1970年から活動を続ける神奈川フィルハーモニー管弦楽団(以下 神奈川フィル)が、2024-2025シーズンのプログラムを発表した。
2024年4月には、よこすか芸術劇場で『Dramatic Series 歌劇「夕鶴」』が上演される。神奈川フィルの桂冠芸術顧問であり横須賀の地に暮らした作曲家の團伊玖磨は生前、現在の神奈川フィルの音楽監督である沼尻竜典によこすか芸術劇場のことを「横須賀に行ってごらん、ミラノのスカラ座が建っているよ」と語っていたという。團が愛した地で地元の横須賀芸術劇場少年少女合唱団の子どもたちも参加しての公演は、神奈川のオーケストラとして意義深い。
定期演奏会では、まず新シーズンのオープニングとなる4月に、2024年に生誕200年を迎えるブルックナーの『交響曲第5番』を、7月には2024年末で活動を終えることを宣言している井上道義の指揮で、ドビッシーの『夜想曲』に加え、伊福部昭の『ピアノとオーケストラのための「リトミカオスティナータ 」』『日本狂詩曲』を取り上げる。
11月には神奈川フィルの定期演奏会が400回を迎える。記念すべきメモリアル演奏会を飾るのはヴェルディの『レクイエム』。ソプラノの田崎尚美、メゾソプラノの中島郁子、テノールの宮里直樹、バリトンの平野和、そして「プロ歌手による神奈川フィル合唱団」と大編成の管弦楽で挑む大作に期待したい。
2025年1月にはコリヤ・ブラッハーと神奈川フィルの初共演が実現。ベートーヴェンの『ヴァイオリン協奏曲ニ長調Op.61』ではヴァイオリンを演奏しながら指揮をする、いわゆる“弾き振り”を目の当たりにできる。続く『交響曲第5番』は、2023年1月~3月に放送された日本テレビ系列のドラマ『リバーサルオーケストラ』でも話題となった。神奈川フィルはこのドラマに出演し演奏を担うことでこれまでのクラシックファン以外の客層からも注目を集め、2023年1月にはドラマ内で演奏された作品を集めたスペシャルコンサートも開催している。沼尻監督は「僕は台詞がなかった」とジョークを飛ばしながらも、その波及効果に感謝し、「チャイコの5番」への意気込みを覗かせた。
SNSやYouTubeの動画配信などでもファンを増やしている神奈川フィル。2024-2025シーズンは、2025年4月から休演となる神奈川県民ホールでの最後の一年となるが、神奈川からクラシック音楽の魅力を発信し続けるオーケストラの活躍を見守っていきたい。
取材・文:清水井朋子