科学捜査研究所(通称:科捜研)のスペシャリストと京都府警の刑事たちが、科学を駆使して難事件に挑む。1999年の放送開始から20年を越えたテレビ朝日系の人気ドラマ「科捜研の女」待望の劇場版が9月3日に公開される。本作で、科捜研の法医担当として活躍する主人公・榊マリコ(沢口靖子)と協力して事件の捜査に当たるのが、刑事の土門薫だ。土門を長年演じてきた内藤剛志に、番組の長寿の秘訣(ひけつ)とも言えるチームワークの良さを中心に、劇場版の見どころを含めて話を聞いた。
-放送開始から20年を超え、俳優人生の半分近くを一緒に過ごしてきた土門薫という役は、内藤さんにとってどんな存在でしょうか。
「こういう男になりたい」という理想の男です。正義感があるし、誰に対しても距離が一緒。上司に対しても、部下に対しても同じで、まったくブレがない。現実の社会ではなかなかできることではありません。だから、「混じりっ気のない男」あるいは「一筆書きで描いたようなシンプルで力強い男」というイメージがあります。
-視聴者には、土門=内藤さんに見えるのでは?
そうだったらうれしいです。僕は基本的に、犯人役のような特別なものを除いては、“役作り”みたいなことはあまりしないので、土門にも僕自身の要素がたくさん入っている気がしているんです。人生の大事な時期を20年近く一緒に生きてきた男でもあるので、どこかに自分が入っていなかったら寂しいですし(笑)。
-土門を語る上では、主人公・榊マリコとのコンビが欠かせません。マリコ役の沢口さんの座長ぶりを、どんなふうにご覧になっていますか。
どれだけ準備をして、どれだけ真正面から向きあっているか。その姿を見せるのが、彼女の座長としてのあり方のような気がしています。真正面から向き合い、一切手を抜かない。生真面目、几帳面、そして熱心。「疲れた」と絶対に言わない。それが、沢口靖子という女優です。その姿がみんなに影響を与え、座長としての空気を作っているんじゃないでしょうか。
-沢口さんは実際、どんな準備をしているのでしょうか。
せりふは完璧です。僕は「ある程度、意味が通じればいい」という感覚でしゃべりますが、彼女は何度録音しても、全部一緒。例えば、「昨日、公園に行った」を「昨日公園に、行った」または「昨日公園に行った」と言っても意味は通じますよね。でも、沢口さんは「てにをは」や「、」の位置まで全部台本通り。
-すごいですね。
撮休の日も、恐らくずっとホテルで勉強しているんじゃないでしょうか。一度、冗談半分で彼女に「寂しかったら電話しなよ。飯でも食いに行こう」と言ったことがあるんです。そうしたら、「大丈夫です」って(笑)。多分、自分の中でルーティンを作っているんでしょうね。ここでこれを撮るから、ここから準備して…と何日も前から時間割を作ってこなしていく。だから、僕が食事に誘ったりしたら、それが狂ってしまうんでしょう。
-長く俳優として活躍してきた内藤さんから見ても、そういう人は他にいないと?
いませんね。“沢口靖子”というジャンルですよ(笑)。僕は「科捜研の女」以前から共演が多かったので、彼女との共演経験はかなり長い方だと思います。大ざっぱな僕とは全く違いますが、だからコンビとしてやっていけるんでしょう。僕までそんなに几帳面だったら、大変です(笑)。でも、そういう彼女の努力があったからこそ、20年間、番組の魅力が失われなかったんだと思います。
-今回の劇場版は、そうやって続いてきた「科捜研の女」20年の集大成として、過去の登場人物が数多く登場するのも見どころの一つですね。
昔の仲間がまた戻ってきてくれるのは、すごくうれしい。ただ、僕の中では彼らもずっと同じ世界の中で一緒に生きてきたと思っているんです。たまたま今回は映ったけど、それ以外の場面でもきっとどこかで会っているんじゃないかと。
-そういう意味で今回、懐かしい顔ぶれがそろったのは心強かったのでは。
そうですね。僕はいつも、今までいたメンバーが番組を卒業していくときに、送る言葉として必ず言うんです。「卒業しても、一度でも『科捜研の女』に加わった人間はみんなファミリーだぞ」と。それは、犯人役の方も含めてです。だから、いつ帰ってきてもいい。今回出てこなかったメンバーはまだまだいますから、毎年1本ぐらい劇場版が撮れるといいんじゃないかな(笑)。
-そういう気持ちを持っていることも、番組が長く続いてきた理由の一つかもしれませんね。その点、今回の劇場版は、今までのファンだけでなく、初めて見る人もそういう人間関係を知ることができ、入門編的な楽しみ方もできますね。
人間関係の大まかな相関図が把握できますよね。マリコに関しては、実は結婚歴があったことを知らない人も多いでしょうし。他にも、過去にこういう人たちがいた、ということが分かるので、気になったら映画を見た後、再放送や配信で過去のシリーズを楽しんでいただけたらうれしいです。
-「一度でも『科捜研の女』に加わった人間はみんなファミリー」とのことですが、今回の劇場版でカギを握る大学教授・加賀野亘を演じるのは、物語の舞台となる京都出身の佐々木蔵之介さんです。土門との対決は大きな見どころですね。
蔵之介は大好きな俳優なので、楽しかったです。僕も京都に住んでいるので親近感もありますし、何よりものすごく力のある俳優ですから。対決はやっぱり、相手が強い方が面白いですからね。
-佐々木さんとのお芝居はいかがでしたか。
今まで仕事をしたことがあるから、「こういう演技を作るんだろうな」というのはなんとなく分かるんです。そこを楽しみにしているけど、お互いに準備はしても、決め切ってはいない。だから、現場でパンと出したものが正解になる。8割から9割準備をして、最後の1割はフリーハンドにしておく。そういうやり方が、蔵之介とはすごくうまくいったと思います。お芝居の打ち合わせは一切しなかったですけど、対決だからといって「口を利かない」ということもなく、本番直前までばか話ばかりして(笑)。
-現場がそんな和やかだったとは思えないほど、お二人の火花散る対決に息を飲みました。
それも、お互いに信頼しているからできること。だから、すごく楽しかった。
(取材・文・写真/井上健一)