相米映画の魅力3:エモさ全開!歌謡曲の絶妙な使い方

昨今、登場人物の真情を台詞ではなく、挿入歌で代弁することが大流行で、例えばA24の『ムーンライト』、『ビール・ストリートの恋人たち』、『WAVES/ウェイブス』などの楽曲の差し込まれる瞬間の威力は実感するところだ。

相米慎二監督はそういう楽曲の使い方に先駆的な作家であった。

台風の接近で、制服の下に隠し持っていた少年少女の性の芽生えや衝動が露わとなって、やがて祝祭を迎えるかのように台風の最中、踊り狂う『台風クラブ』では、BARBEE BOYSの「暗闇でDANCE」「翔んでみせろ」やP.J & COOL RUNNINGSの「CHILDREN OF THE WORLD」「FREE NO WAY」の曲が挿入されていて、思春期のナイフのように尖った感性を盛り立てる。

石井隆の名美と村木のすれ違う恋を描く『ラブホテル』で流れる山口百恵の「夜へ…」(作詞::阿木燿子 作曲:宇崎竜童)ともんた&ブラザーズの「赤いアンブレラ」が醸すしっとりとした風情。

と、同時に、相米映画では、「なぜここで、この曲を?」と永遠に解けない謎のように不可思議な使い方で、主人公が唐突に歌う場面がある。

『セーラー服と機関銃』で薬師丸ひろ子演じる星泉が亡き父が好きだったと歌う「カスバの女」(作曲:久我山明 作詞:大高ひさを)、『台風クラブ』で豪雨の中、下着姿の青少年が熱唱するわらべの「もしも明日が…。」、『東京上空いらっしゃいませ』でまもなく天国へと昇天する牧瀬里穂がカウントダウンを胸に秘めながら歌う井上陽水の『帰れない二人』。『お引越し』で田畑智子演じるレンコが歌う井上陽水の「東へ西へ」。

書籍「相米慎二という未来」の中で、『花束みたいな恋をした』の土井裕泰監督は「ものすごく純粋なものと、すごく大人のものが定義されないまま、歌として投げ出される」と語る。

ストーリーの単純な道行案内としての音楽の使い方ではなく、本人にも意識されていない未分化の感情が、楽曲を通して鮮やかに提示される。それをどう受け取るのかは、観客の思うまま、そういう自由さが相米映画には常につきまとう。

9月9日の命日に合わせて刊行された2冊の本のうち、相米慎二監督自身が手掛けた幻のエッセイと、質疑応答をまとめた「相米慎二 最低な日々」は相米監督の声を集めたもの。

あとがきは、相米慎二監督とは父子関係を築いていたという永瀬正敏。

一方、「相米慎二という未来」は三浦友和、佐藤浩市、河合美智子、大西結花、牧瀬里穂、浅野忠信、小泉今日子など相米組のスタッフ、キャストの体験した映画作りを検証した声と、俳優の稲垣瑞生や松居大悟監督のように今、まさに相米映画と出会っている人間の声を収録している。

相米映画のほとぼしり、その相米映画にインスパイアされる今の映画人たちの作品ともども、アクセスしてほしい。

今秋は以下の地域、劇場で上映が決定している。

・東京・渋谷「ユーロスペース」
9月11日(土)〜17日(金)『台風クラブ』

・富山市「ほとり座」
9月11日(土)〜17日(金)『ションベン・ライダー』
9月18日(土)〜24日(金)『風花』

・長野県・上田市「上田映劇」
11月6日(土)〜19日(金)『台風クラブ』、『ションベン・ライダー』、『風花』

 

映画ジャーナリスト。「キネマ旬報」「装苑」「ケトル」「母の友」「朝日新聞」など多くの媒体で執筆中。著書に映画における少女性と暴力性について考察した『ブロークン・ガール』(フィルムアート社)がある。『90年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)、『アジア映画の森 新世紀の映画地図』(作品社)などにも寄稿。取材・構成を担当した『アクターズ・ファイル 妻夫木聡』『アクターズ・ファイル 永瀬正敏』(共にキネマ旬報社)、『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』(スペースシャワーブックス)が発売中。