10月23日、新国立劇場バレエ団2021/2022シーズンが、ピーター・ライト版『白鳥の湖』(新制作)の上演をもって開幕した。その前日、賛助会員や報道陣に公開された舞台稽古の模様をレポートする。
冒頭、客席に向けて挨拶した新国立劇場舞踊部門芸術監督の吉田都は、「やっとここまで辿り着けた」と本音をのぞかせた。この『白鳥の湖』は、昨年、彼女の芸術監督就任1年目のシーズン開幕を飾る作品として予定されるも、コロナ禍で海外の指導者、スタッフの招聘がかなわず、1年の延期を経てようやく実現した。「サー・ピーターに喜んでいただける仕上がりになったと自負している」と吉田はいう。
1981年に初演されたこの『白鳥の湖』は、演劇の国・英国らしいドラマティックで説得力ある舞台で、世界中の観客を魅了する。第1幕の幕開きから、振付家の手腕が色濃く反映された独特の場面が展開する。薄暗い舞台の下手から上手へとゆっくりと進むのは、王の葬列。多くのヴァージョンでは王の不在は説明されないが、ライト版のこの場面は、息子ジークフリード王子が置かれた状況を明らかにし、その先の重々しいドラマを予感させる。
客席をぐいぐいと物語の世界へと引きこむのは、作品の力のみならず、ダンサーたちのきめ細やかな演技、確かな技術に基づいた踊りだ。米沢が演じ分けた、儚いながらも凛とした美しさが魅力のオデットと、品の良さと大胆さを併せ持つ誘惑者オディール。一方の福岡は、悩み多き王子を清々しく演じた。その後も日替わりで登場する主役カップルそれぞれが、各々の個性を存分に生かした演技で客席を魅了するだろう。もちろん、第2幕、ガリーナ・サムソワによる、ロシアの伝統を受け継ぐ幻想的な群舞の美しさは格別だし、英国のオリジナルを再現したという衣裳も圧巻。バレエの美しさ、楽しさとはこうであったかと、あらためて実感させられる舞台だ。
冒頭、吉田は10月20日に他界した牧阿佐美への弔意を表し、翌23日の開幕公演を彼女の追悼公演としたいと述べたことにも触れておきたい。翌日の舞台は、熱気あふれるカーテンコールで成功を印象付けたが、1999年から2010年の長期にわたりこの劇場の舞踊部門芸術監督を務めた故人の、その大きな功績をしのぶひとときともなった。
公演は11月3日(水・祝)まで新国立劇場オペラパレスにて開催。好評につきチケットは残り僅か。
文:加藤智子