『発達障害に生まれて』(松永正訓著/中央公論新社)のノンフィクションの題材となった立石美津子です。
あなたは家を出た直後に「あれ?ガスの栓を閉めたかしら?」「戸締りをきちんとしたっけ?」と心配になり、家に戻った経験がありませんか。
このようなことは誰しも多少なりともあります。
ですが、ドアノブをガチャガチャ回して閉まっていることを何度も確認しても不安が消えず、外出するまでに異常に時間がかかり、結局は時間がなくなり家に籠ってしまう…こうなると、日常生活を維持するのが難しくなります。
このほかにも、例えば新型コロナウイルス感染症の予防のため、一回の手洗いに何十分もかけたり、何時間もお風呂から出てこないなど、こんな状況に陥っている人はいないでしょうか。
これらは、もしかしたら「強迫性障害」を発症しているのかもしれません。
私は23歳の時にこの病にかかり、一年間、精神科に入院していたことがあります。
「強迫性障害」とは
本人の意思とは無関係に頭に浮かぶ、不快感や不安感を生じさせる“強迫観念”と、それを打ち消し振り払うために繰り返す“強迫行為”からなる病気です。
症状にはさまざまありますが、代表的なのは「不潔恐怖」。洗っても洗ってもまだ汚れているような気がして止められなくなるのです。
手を洗い終えても蛇口を触ることでまた汚れたと思い、永遠に手洗いが続き、ハンドソープがなくなるまで続け、手がボロボロになります。
蛇口やノズルを触って再び手が汚れるのを恐れてお風呂に入らなくなり、かえって不潔になってしまうという、おかしな結果になるケースもあります。
この不潔恐怖のほかに、
・確認強迫: ガスの元栓や鍵の締め忘れが不安になり、何度も家に戻って確認する
・数唱強迫: 特定の数字を見聞きすることを異様に恐れ、外出がままならなくなる
・加害恐怖: 運転中、人をひいてしまったのではないかと何度も車の下を確認する
・疾病恐怖: 健康なのに病気の不安から逃れられず、受診を繰り返す
・不完全恐怖: あるべきところに物を置かないと不安になる
・醜形恐怖: 自分の容姿が人に不快な思いをさせていると思い込む
などもあります。
不安を振り払うための強迫行為は不合理なもので、「自分でもおかしな行為をやっている」という自覚がありますが、それを止めるとまた不安や不快感が襲ってくるため、なかなか止めることができません。
一番苦しんでいるのは本人です。そんなとき、家族が「そんなに何度も洗わなくていいの!」「もう、鍵はちゃんと閉まっているんだからいい加減にやめなさい」と言うのは最もよくない対応なのです。