左から片岡愛之助、松本幸四郎 左から片岡愛之助、松本幸四郎

今年も、南座で京の年中行事「當る寅歳 吉例顔見世興行」の幕が開く。コロナ禍に安全安心の観劇環境を提供するため、客席数を60パーセントに減らし三部制各2演目での上演だ。第一部は坂田藤十郎三回忌追善狂言として『晒三番叟(さらしさんばそう)』『曽根崎心中』、第二部は『三人三吉巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ)』に、片岡仁左衛門の『身替座禅(みがわりざぜん)』。そして第三部は松本幸四郎と片岡愛之助の『雁のたより』と『蜘蛛絲梓弦(くものいとあずさのゆみはり)』。幸四郎と愛之助が出席し、取材会が行われた。

「當る寅歳 吉例顔見世興行」チケット情報

まずは上方歌舞伎の名作『雁のたより』。有馬温泉を舞台にした恋の騒動を描く物語で、髪結の三二五郎七(さんにごろしち)を演じる松本幸四郎。開口一番「誰よりも驚いているのは僕だと思います。(配役の)お話をいただいて、断らない自分の勇気を褒めたたえてあげたい(笑)」。三二五郎七は坂田藤十郎、中村鴈治郎らが演じて関西ではなじみのある、コテコテの大阪人の役だ。「東京の俳優がやるのは無謀なことと認識している上で、自分は上方俳優だと思い込んで勤め上げたいと思っています。二枚目でありながら三枚目という三二五郎七の生活感が出るように、たくさん笑っていただけるような役を目指して頑張ります」。

この演目で、片岡愛之助がかつては幸四郎が演じた若旦那役を初役で演じる。「すっかり上方俳優の幸四郎さんと一緒に芝居ができること、上方俳優としてすごくうれしく思っております(笑)」。また、今回は片岡仁左衛門の監修で、昭和26(1951)年、十三世仁左衛門の襲名披露公演で上演した際の演出となる。愛之助は「前に成駒家さんの型で若殿を勤めさせていただきました。今回は私の家の本で、成駒家さんとは少し違うようなので非常に楽しみです」。

2作目は、日本を魔界に変えようとする蜘蛛の精と源氏の大将・源頼光らの戦いを描く『蜘蛛絲梓弦』。幸四郎は「年の最後に見納めとして観ていただく歌舞伎狂言としては最たるもの。その中で凛とした頼光を勤めたい」と話す。見どころは愛之助の五役変化。蜘蛛の精をはじめ、小姓、太鼓持、座頭、そして女方の傾城・薄雲太夫まで、キャラクターのまったく違う五役を早替りで演じ分ける。「南座の劇場に合った出入りをしたいと考えております。楽しみにしていただければ」。愛之助は今年5月に父・片岡秀太郎を亡くした。「父のいない顔見世は初めてですけれども、いまだに信じられない感じで、不思議です。天国から見守ってくれているんじゃないかと思っているので、すべての役を一役一役、しっかりと勤めたいです」。

公演は12月2日(木)から23日(木)まで、南座にて。チケットは11月10日(水)一般発売開始。一般発売に先駆け、11月6日(土)10:00より先行先着プリセールを実施。

取材・文:高橋晴代