■ 強面のポーカーフェイスに隠れる、果てしないイケメン臭

『鬼灯の冷徹』江口夏実 (著)
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パッと見の印象は和服を身にまとい、華奢ながらも筋肉質な体と、ワイルド風イケメンに見えなくもない鬼灯。そのルックスから「ちょっと格好いいかも……」と、一目惚れする女性はきっと少なくありません。

ですが、いざ蓋を開ければ、目つきも悪く何を考えているのかまったく分からない無表情顔で、これでもかという威圧的な態度……。1巻の作中でも触れられていますが、その姿はまるで上野動物園にいるハシビロコウ(※鳥類の一種)にそっくりです。

それは、上司の閻魔大王も怯えるほどであり、鬼灯が(オーストラリアに行った際は)「コアラ、めっちゃ抱っこしたい」というひと言に対しても「君、どっちかっていうと、タスマニアデビルを手懐ける側だろ!?」と猛反発。ほかにも、「君の表情からは、一カケラも明るさが読み取れないんだけど……」と恐る恐る鬼灯の朴念仁っぷりを指摘したりと、もはやどちらが上司か部下か分からない有り様になっています。

しかしだからといって、鬼灯はなりふり構わず部下や上司を脅しているわけではありません。確かにルックスは強面ですが、歯に衣着せぬ冷静な発言には“知的”と“的確さ”の両方が滲み出ています。彼が上司を上司とも思わない言動を取ったところで、決して四面楚歌にならず周囲の理解を得ているのは、まさにここに秘密があると言えそうですね。

■ ナンバー2なのに謙虚な姿勢と、仕事もできる叩き上げ

彼は閻魔大王の下で働く二代目第一補佐官。いわば、ナンバー2に匹敵するほどの肩書きを持つ実力の持ち主です。にもかかわらず、その仕事の姿勢はとても謙虚で、かつて同じ職場で働いていた同僚からは「補佐官になられて、もう何千年ですか? 我々、鬼の誇りですよ」と尊敬されるほどの、いうなれば相当の“叩き上げ”です。

特に、それが顕著に表現されているのが、3巻に登場するサタンの右腕である蝿の王(ベルゼブブ)と絡むシーン。同じナンバー2で、自分のことをキャリアと傲っているベルゼブブですが、鬼灯は「(私はあなたと同じ)キャリアではないのですが……」と以下冷徹にあしらいます。

「ベルゼブブ様はキャリアなのですね。御立派です。……いいんじゃないですか。いばれる立場なのですし」
「ですが、温室で育った胡蝶蘭(=ベルゼブブ)は、しょせん雑草(=鬼灯)がはびこったら枯れ果てるのですよ」

むしろ、自分のことは「官房長官みたいなもんですよ、地味地味」と言って、黒幕を勤めるのが美味しいと思っている彼は、そのドSな発言とは裏腹に、誠実に仕事に取り組んでいることがよく分かりますね。