こうした例を考えるうちに浮かんできたのが、TVアニメ制作現場では改変方針がどのように決められ、どう運用されているのか? 厳しい規制によってスタッフの士気が下がったりしないのか? ……という"自主規制"に関するもろもろの疑問。

今回はその疑問をぶつけるべく、アニメ業界で活躍するT氏(仮名)にお話を聞かせてもらった。名前を明かすことはできないが、T氏は業界歴10年以上のキャリアをもち、数々の有名作品で脚本・ノベライズなどに関わってきた。現在TV放送中の作品でも複数に脚本家としてクレジットされている。
 

制作者は表現の自由を棄てているわけではない

「まず大前提として――そもそもなぜTVアニメに自主規制があるのか?」と、T氏は話し始めた。ここで語られた内容は、恥ずかしながら記者が取材前に思い至らなかったことだ。

「漫画や小説・ラノベなどは"自分で選んで買わないと作品内容に接触できない"メディアです。これに対し、TVアニメは"たまたまチャンネルをつけていたら観てしまった"ということが起こりうるメディアです。ここが両者の決定的な違いです」

なるほど。たしかにTVアニメは子供向けなら土日の朝や夕方に、コアなファン層向けなら平日深夜に放送するなど、一定の棲み分けがされている。しかしその気になれば小学生でも深夜アニメを見ることは簡単だ。好ましくない表現に触れてしまうリスクは常に付きまとう。

「"映像"は、視覚と聴覚に訴える、極めて"強い"表現方法であることは間違いありません。観たいと望んでいなかった視聴者にまで届く可能性がある以上、放送局や製作者は不快な表現や過激な描写に慎重になるのは当然、というスタンスなわけです。表現の自由を棄てているわけでも、何かに屈しているわけでもないのです」

過激な表現で視聴者からクレームが入れば、スポンサー離れにもつながる。だから局側は過剰な自主規制を現場に押し付けているのではないか……記者はそんなふうに意地悪な想像をしていた。しかし大前提としてあるのはTV局のためではなく、あくまで"視聴者を守るため"。後でも語られることだが、日本のアニメ制作者はクリエイターの信念を棄ててなどいないのだ。