厳しくなる規制、燃え上がる表現者の魂

さまざまな条件から決められた自主規制の方針は、局ごとのチェック担当者→プロデューサーを経て制作現場に伝わってくる。それを受け、現場ではセリフ内容やシーンの差し替え、陰影や湯気をつけてぼかす、音声にピー音を入れるといった対応を施す。
漫画やライトノベルをアニメ化する場合、時には原作の持ち味を失わせかねない自主規制も出てくると思うのだが、スタッフやキャスト(声優)から不満が漏れたりはしないのだろうか?
「原作の表現を生かしたいところにNGが出た場合、代わりの表現を考えなければなりませんので、苦労といえば苦労です。ですが、アニメスタッフは制約があってこそ真価を発揮するもので、モチベーションが下がるということはありません。場合によっては原作者も巻き込んで代案を考えることもあります。キャストは目の前の台本と映像に命を吹き込むことが使命ですので、規制によってモチベーションが左右されるということは考えにくいです」
自主規制で内容を改変する際、原作者へ事前に確認を取るものだろうか?
「"アニメの現場に一任する"というポリシーの原作者でない限り、確実に許諾は取ります。脚本、絵コンテの段階で原作・編集サイドのチェックを通します。特に昨今は"原作ファンの期待に応えねば"と現場の意識が変わってきたこともあり、表現規制であれ、作劇・映像演出上の変更であれ、原作の改変にはまず了承を取りますね」
では最後に、一番気になっている質問をぶつけてみたい。アニメ制作の最前線で働く人間として"自主規制はこれからも厳しくなっていくと思いますか?"
「緩くなることはおそらくないと思います。アニメは今後、TVのみならずネット配信などへもどんどん進出していきます。現在は配信元が自主的に放送倫理を適用していることがほとんどですが、将来的にはなんらかの枠がはめられる可能性もあります。その場合も、ルールはルールとして遵守し、その中で面白いものを作っていくことが制作スタッフの責務であると考えます。先にも言いましたが、アニメスタッフは"制約が多いほど燃える人種"ですから」
どれだけ業界内外からの規制が強まろうと、与えられた条件内で最高の映像表現を目指す――当たり前のようでいて何よりも実現困難なこの目標。それをはっきり言い切るT氏に、日本のクリエイターの意地と誇りを見せてもらった気がする。
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