川口春奈(左)と岡田将生

 亡き父が遺した韓国の別荘で、悠々自適に暮らす青年・輝夫の元へ突然、夫・滋(薬丸翔)の浮気で結婚生活に愛想を尽かした妹の要が転がり込んでくる。思わぬ形で始まった兄妹同居生活の中、要は日本にいるはずの滋と再会。ところが滋は、パスポートはなく、着の身着のままで、記憶も曖昧だった。しかも、東京でもいつも通りに滋が働いていた。2人の滋が現れた理由を探り始めた輝夫と要が辿り着く恐るべき真実とは? 劇団イキウメの人気舞台を『AI崩壊』(20)の入江悠監督がオール韓国ロケで映画化した『聖地X』が、11月19日から劇場/配信同時公開となる。主人公の兄妹、輝夫と要を演じた岡田将生と川口春奈が、日韓合作となった本作の舞台裏を語ってくれた。

-ホラー映画でありながらコメディー的な要素もあるなど、不思議な味わいの作品ですが、演じる上ではその辺をどう意識しましたか。

岡田 お芝居については、テンポよくやることが大事だと思っていたので、なるべく止まらず、見る人が考える時間がないように、ということは意識していました。ただ、川口さんも多分同じだと思うんだけど、こんなにホラーになるとは思っていなかったよね。

川口 はい、そうですね。

岡田 現場でも、そういう空気を作ろう、ということは全くなくて。僕たちも巻き込まれていった感じがものすごくあります。そういう意味では、出来上がったものを見て、「僕たちはこういうジャンルの映画を撮っていたのか!」って、多分、皆思ったんじゃないかな。だから、そこについては「僕たちは入江さんの手のひらの上で踊らされていたんだな」というぐらい、いい意味でだまされていたような感じがあります。

川口 確かにそうかも。いろんな要素がてんこ盛りなんですよね。一つのジャンルにくくれないぐらいの要素がギュッと詰まっていて。CG処理の部分も多かったので、現場では想像し切れない部分もあり、出来上がったものを見て、「こんな感じになったんだ!」と驚きました。これを全部踏まえた上で、入江さんは当時、現場で演出してくださっていたのかな、と思うと、私が想像しているよりも遥かにものすごいものが出来上がっちゃったなと。

-入江監督の現場での演出は、どんな感じだったのでしょうか。

岡田 かなり自由でした。「この場所でこのシーンを撮ります。どうやりますか?」みたいな感じで。要が軸で物語が動き出すので、僕たちはそこに準じて作っていくと、ああいう感じになったというか。入江さんも、それを楽しんで見てくださっていた部分がありますし。

川口 岡田さんがおっしゃったように、お芝居に関して入江監督から細かく「こうしたい」と指示されることはなく、自由にやらせていただいた印象があります。そういう意味では、要は怒ったり、イライラしたり、感情の起伏が激しい人ですけど、カオスな出来事にたくさん遭遇するので、そこに純粋にリアクションしていけば、そういう波が自然と作れるようなキャラクターだったのかなと。

岡田 もちろん、枠から外れれば修正されるんですけど、役柄を理解してやっていけば大きく外れることもなかったので、「自由に演じさせてもらった」という感覚がすごく強いです。

-お芝居の点では、お二人は今回が初共演ですが、お互いの印象をお聞かせください。

岡田 川口さんのことはもちろん昔から知っていましたが、一緒に仕事をしてみると、どの仕事にも正直に向き合っていることがよく分かりました。要という役は本当に難しかったと思うし、悩むシーンもたくさんあったと思うんです。でも、そういう姿を一切見せず、さらっとやってしまう。そういう姿がとても頼もしかった。「気持ちよく一緒に仕事ができる方だな」という印象がすごく残っています。

川口 岡田さんは本当にお兄ちゃんのようで、心の支えになりました。全て海外で撮影する経験もなかなかありませんし、コミュニケーションも難しい中、堂々としていてくださったので、すごく安心できましたし、信頼もしていました。仕事以外の相談にもいろいろ乗っていただいて、すごくありがたかったです。

-劇中では駄目な兄の輝夫としっかり者の妹・要という関係ですが、実際はそんなことはなかったわけですね。ところで、オール韓国ロケで撮影したことで韓国映画らしい空気感が加わり、それが本作独特のムードにもつながっているように感じます。韓国での撮影はいかがでしたか。

岡田 僕は『パラサイト 半地下の家族』(19)や『殺人の追憶』(03)といった韓国映画が大好きなので、日本の映画とは違う韓国映画の空気感を感じられたのは、すごく面白かったです。いつか機会があったら、韓国映画にも出てみたいと思うようになりました。

川口 現場は、日本のスタッフさんと韓国のスタッフさんが半々ぐらいでしたが、言葉の壁や文化の違いもあって、一つの作品を作るのはすごく大変な作業だったと思うんです。でも、お互いをリスペクトしながら、撮影が円滑に進むように心遣いをしていて、作品に対する愛情がひしひしと伝わってきました。助監督の方も、日本語の分かる方が親身になって仕事をしてくださって。だから、何の不自由もなくお芝居に集中できました。そういう恵まれた環境でお芝居ができたことは、すごくありがたかったです。

-撮影は2019年に行われたそうですが、映画の場合、撮影から公開までに時間がかかることは珍しくありません。ただ、今回はコロナ禍という前例のない困難な状況を乗り越えた上での公開となります。公開を控えた今の気持ちをお聞かせください。

岡田 なかなか公開時期が決まらず、モヤモヤする時間もあったんですが、公開されずに終わってしまう作品もある中で、こうして公開を迎えられたことが、本当にうれしいです。皆さんに見てもらうことで、ようやく作品が完成するわけですから。

川口 もどかしい部分もありましたが、撮影して、みんなでプロモーションして、公開して、お客さんに見てもらって、ということが、どれだけすごいことだったのかと、気付かせてくれる期間でもありました。仕事に対する自分のスタンスみたいなものも、必然的に考えさせられましたし。時間はかかりましたが、公開することができて、皆さんの前で舞台あいさつができることが、本当にうれしいです。

(取材・文・写真/井上健一)