『海をゆく者』などで知られるコナー・マクファーソンの戯曲を、気鋭の演出家、荒井遼が手がける3人芝居が間もなく開幕。そこで稽古中の首藤康之、山下リオ、小日向星一に話を訊いた。

舞台はクリスマス・イヴのダブリンにある葬儀屋。酒浸りの日々から家族を捨て、なんとか生活を立て直し始めたジョンを、首藤が演じる。「まぁめちゃくちゃですけどね(笑)。ダメ男とは書いてありますが、やればやるほど、僕は魅力的な男だと思います」。また首藤にとってこれほど台詞量の多い役は初めてとのことで、「僕もびっくりしました」と笑いつつ、「50歳になった今、この作品が転換期になるような気がして。不安も大きいですが、同じくらい興味もある。なによりふたりとお芝居することがとても楽しいです」と続ける。

山下演じるメアリーは、母が病気であることを告げに、10年ぶりにジョンの前に現れる彼の娘。「すごく多面的な感情を抱えている人ですね。怒ったり、悲しんだり、子供だったり、大人だったり。ただ演出の荒井さんには、『毎日同じ感情にならなくていいし、同じ芝居に沿ってやる必要はない』と言われて。その言葉にすごく救われましたし、最終的に心に感じるものが同じであれば、その道筋は違ってもいいと思えたんです」

小日向が演じるのは、ジョンの葬儀屋を手伝っているマーク。「ジョンの長話にもちゃんとつき合ってあげる、心根の優しい奴だと思います。演じる上では、その“聞く姿勢”みたいなものが大事になってくるだろうなと。ただ彼なりに抱えているものはあって、実は『早く帰りたい』と思っているかもしれない(笑)。それでも基本的にジョンのことは大好きだし、彼のかつての様子を聞いて、自分に重ねているところもあるのかもしれないですね」

出演者は3人ながら、物語はそれぞれジョンとメアリー、ジョンとマークのふたりのみの会話で紡がれていく。首藤が「僕がしっかりしなきゃいけないんだけど…」と苦笑いを浮かべると、「すごく魅力的ですし、体も言葉も表現する根底は一緒で、いろんなものが首藤さんから出てくるのを感じます」と小日向。山下も「首藤さんが諦めない分、こちらも信じてやれるのでとてもありがたいです」と全幅の信頼を置く。

公演はクリスマス直前とのことで、首藤はこう締めくくる。「クリスマスの飾りつけのように、お客さまそれぞれが、この作品からなにかひとつずつ持って帰ってもらえたら嬉しいなと思います」

取材・文:野上瑠美子