歌声、身体…各界のプロが認める水樹奈々の凄さ
さらに、ヘッドセットでミリタリー風の衣装になると、ディスコ調の『Inside of mind』とハロウィン風マーチ『Love Fight!』では、8人のバックダンサー・team YO-DAと共にダンスも披露。
歌は幼少期から演歌歌手を目指して父親に鍛えられてきた水樹だが、ダンスは元々は経験がなかった。最初はライブでの企画として踊り始めたが、いつしかダンスコーナーは毎回の恒例に。今回も腕を大きく使うしなやかな振りがダンサーたちときれいに揃い、歌を聴かせながら目も奪った。
まさに縦横無尽なステージを展開していく水樹奈々。その根幹にあるのは間違いなく、卓越した歌唱力だ。ファルセット、ロングトーン、ヴィブラートと駆使しながら、楽曲ごとに世界観を絶妙に引き立たせていく。
水樹は過去3回、『LIVE GRACE』と銘打ったフルオーケストラでのライブを行った。
指揮を務めた藤野浩一氏によると、リハーサルで演奏者たちは当初、見た目は小柄で普通のお嬢さんというたたずまいの水樹を様子見していたが、歌い出すや「最高峰のオペラ歌手と同じ音域だ」と色めき立ったという。
藤野氏は「普通は女性の声域でおいしいのはDくらいまで。ところが奈々ちゃんは、上のGで平気で歌うからビックリした」と話していた。
また何気なくやっているように見えるが、水樹はダンスコーナーで大きく踊りながら歌っても、決して音がブレない。間奏中にステージの端から端まで走ったあとに歌っても同様で、声量も落ちない。体幹や腹筋の強さ。彼女の徹底した体作りの賜物だ。
2011年の初の東京ドーム公演の前からトレーナーを付けて、アスリート並みのメニューをこなして肉体改造。2015年のツアーでは“見せる体と動ける体の両立”という難題に挑み、各会場で本番前もトレーニングに励んだ。西武ドームでは100m以上あるステージを全速力で走りながら歌うという、驚異的なパフォーマンスも見せている。
トレーナーの佐藤公勇氏は「どんなアスリートも全力疾走しながら歌うことはできない。どんなアーティストも音を外さず歌いながら走ることはできない。水樹奈々さんだからできる特許みたいなもの」と語っていた。
ブランク明けの今回のライブに向けては、「年齢を感じさせない動きをしたい」と、HIITトレーニングなどもこなし、体力や筋力を取り戻したそう。「今は20代の頃より体力があります」とも言う。
今回の公演は、リハーサルまで完了しながら中止になった20周年ツアーをベースに再構成され、過去の幾多のライブシーンを繋いだ映像も流された。「当時のマネージャーがホームビデオで撮っていた」という原宿アストロホールでの2001年のライブから、日本武道館、東京ドーム、甲子園球場、出雲大社……などと僅かずつだが流れて、懐かしさを呼ぶ。
この日のセットリストで一番古い楽曲は、2001年の1stアルバム収録の『TRANSMIGRATION』。初期の水樹の転機になったナンバーだ。
もともとラジオ番組の企画で、ロック系アニソンシンガーの草分け・奥井雅美に作詞を依頼。のちに水樹の楽曲を多数制作した矢吹俊郎が作・編曲。
まだ演歌の歌い方が染み付いていた水樹が、奥井の仮歌を手本に16ビートのリズムやアクセントの取り方を徹底的に鍛えられたという。ロックを歌う足場を築き、今や威風堂々と歌い上げていた。
デジタルリリースしたばかりの新曲『Red Breeze』では、激しいビートに乗って歌う側で多色の炎が噴き出す。サビに入ると、バックで滝のような火花が落ちていき、さらに花火が10mまで打ち上がるという、過去最大の火薬量による演出も。その中で水樹のヴォーカルもスパークしていった。