撮影:中田智章(なかだともあき)

中村勘九郎、七之助を中心に中村屋一門が出演して、2005年から毎年全国を巡業してきた『春暁特別公演』『陽春特別公演』。2020年には一度中止になったものの、2021年の「春暁」には勘九郎の息子である勘太郎と長三郎が巡業公演に初参加、大きな話題を呼んだ。元々は、若いファンから“地方に住んでいると、交通費や宿泊費がかかってなかなか歌舞伎を観に行くことが出来ない”という手紙をもらったことから始まったという、兄弟ふたりが中心の巡業公演。今年も趣向を凝らした演目を用意し、「全国の皆様に楽しんでいただけるように」(勘九郎)と意気込んでいる。

まずは勘九郎と七之助、さらに中村屋の部屋子で十八代目勘三郎から「第三の息子」と呼ばれた鶴松を中心に、3月6日から全国16ヶ所を回る『春暁特別公演 2022』。勘九郎と鶴松が出演する「高坏」は、コミカルなストーリーと、次郎冠者(勘九郎)が高下駄で軽快に“和製タップ”を踏むのが見どころだ。七之助が4役を演じる「隅田川千種濡事」も、わずか数秒の早替り(舞台上での早替りも!)で毎回盛り上がる人気の演目。勘九郎は「『高坏』は、父も祖父も踊ってきた中村屋を代表する作品。高下駄で踊る技術も必要ではあるのですが、まずは桜満開の下で踊る春の雰囲気を楽しんでいただけたら」と話す。

そして3月30日から全国5カ所を巡る『陽春特別公演 2022』は、勘太郎・長三郎の「玉兎」と、勘九郎・七之助が出演する「色彩間苅豆」の2演目。「玉兎」は元々ひとりの舞踊で、勘太郎が歌舞伎座でも魅せてくれた演目だ。今回は長三郎が加わり二羽の兎に扮する珍しいバージョン。一方の「色彩~」は男女の因果因縁を描いた物語で、百姓与右衛門、実は浪人久保田金五郎を勘九郎が、悲しい運命に翻弄される腰元かさねを七之助が演じる。「親の怨念から顔が醜く変わってしまう哀しい女性ですが、与右衛門への気持ちを大切に」と七之助。勘九郎も「今の女性にも共感していただけるのでは」と語る。

また、毎年オンエアされているテレビ番組でも微笑ましい成長ぶりが注目されている勘太郎と長三郎。今年11歳と9歳になるふたりながら、舞台上では芝居心あふれる姿をしっかりと見せてくれる。「最近はいっそう稽古事に身が入っていて、とても心強いですよ」と勘九郎も“共演者”として頼もしげだ。「春暁」「陽春」共にトークコーナーとミニ歌舞伎塾もあるので、歌舞伎ファンはもちろん、歌舞伎ビギナーも盛り上がり必至。楽しみな本番に期待したい。

取材・文/佐藤さくら