世界中の音楽リスナーの間で急速に普及しているのが、定額聞き放題のストリーミングサービスだ。その代表例といえば、スウェーデン生まれの「Spotify」。10時間までは無料、以降は月額9.99ドル(米国在住の場合)を支払えば、1900万曲が聞き放題となる。現時点での会員は2400万人で、そのうち有料会員は600万人。ウェブサービスでは一般的に有料会員の比率は5%と言われているため、25%は奇跡とも言える割合だ。

今年中にも日本でサービス開始するとの噂が飛び交うSpotifyだが、海外ではどのような広がりをみせているのか。また、日本で展開する上でどんな可能性を秘めているのか。話題のウェブ連載『未来は音楽が連れてくる』の著者で、世界の音楽業界の動向に詳しい榎本幹朗さんに聞いた。

モバイルアプリを使うと、再生中の作品のジャケットが大きく表示される
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――定額ストリーミングサービス自体は以前からありましたが、Spotifyがこれほど一気に普及した理由とは何でしょうか。

「サービス開始当初からメジャーレーベルが出資し、協力を惜しまなかったことが大きいですね。08年に国際レコード産業連盟が発表したデータによると、ダウンロードされている音楽の95%が違法で、5%の合法ダウンロードのうち、iTunesが占めるのは3.5%ほど。違法ダウンロードをなくすために、iTunesは思ったほど力を発揮していないことがわかったのです。

そこで注目を集めたのがSpotify。例えばYouTubeは、再生ボタンを押してから映像が流れ始めるまでタイムラグが生じますが、Spotifyは一瞬で再生される上に定額で聞き放題。違法ダウンロードをするほうが面倒なのです。そのため、メジャーレーベルは有効な対策になるのではないかと踏んで、手を差し伸べました。

当初は「誰もお金を払わないのでは」との向きもありましたが、結果的に4人に1人が音楽にお金を払う価値を見出すことを証明しました。フックになったのはスマートフォンの普及と、電波の帯域の広がりです。いつでもストリーミングで音楽を受信することが可能になると、Spotifyを入れたスマートフォンがデジタルオーディオプレーヤーの代わりになる。この利便性が受けて、ヨーロッパから広まりました」

――アメリカでの展開は、ヨーロッパとは少し異なるようですね。

「アメリカではSpotifyよりも、ウェブ上のラジオサービス「Pandora Radio 」が圧倒的な力を持っています。現在、月間アクティブユーザー数はアメリカだけで6800万人、トータルリスニングタイムはMTVの4倍で、新しく音楽を聞くツールとして地位を確立しています。

Pandora Radioの特徴は「パーソナライズ放送」。リスナーの好みに合わせて、選曲が千差万別に変化するのです。6800万人それぞれが自分だけの放送局を持っている状態。この画期的な仕組みがウケて、全米で5000ほどラジオ局がある中で、Pandora Radioのレーティング(聴取率)は8.5%と、最大手もかなわないほどの規模になりました。インターネット放送が初めて地上波に圧勝した事例です。

また、お金の流れも革新的です。これまでラジオ局は、あまりミュージシャンにお金を還元していませんでした。日本だと1.5%、アメリカだとさらに低い。ミュージシャンにとって、放送はプロモーションでしかなかったのです。しかし、Pandora Radio は収益の半分をレコード会社とミュージシャンに還元している。その額は、iTunesでのダウンロード販売やCDから得る収入を超えようとしています。そういう意味でも、Pandora Radioは放送業界に革命を起こしたと言えるでしょう」