不振の日本企業を尻目に、近年で急成長を遂げたサムスンを始めとする韓国企業。開発力もブランド力も、日本企業は負けていないはずなのに、その強みはいったいどこにあるのか……そんな疑問を持っている人も少なくないのでは?

そんななかで、今年3月に刊行されたのが『サムスンで働いてわかった 韓国エリートの仕事術』(中経出版)。著者は、2000年から韓国のサムスンで約13年間勤務し、現在も韓国を拠点に、日韓企業の協業支援を行うTAKAOの代表理事社長として活躍する水田尊久さん。その経験から分析した“韓国エリート”の発想や仕事術のポイントをチェックしてみよう。
 

トップダウンで大改革を起こすのが“サムスン流”!

『サムスンで働いてわかった 韓国エリートの仕事術』
水田 尊久(著)
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日本と韓国の大きな違いとして、水田さんは「リーダーシップのあり方」を挙げる。サムスンには絶対的なリーダーがいて、新規事業への参入など大きな改革が決まれば、強力なリーダーシップのもと一気呵成に進めていくのだとか。

水田さんは、サムスンでのある経験から、このことを強烈に感じたという。重大な投資の決定を迫られた場面。突然、必要に迫られた案件で、投資の判断を行えるだけの技術的な裏付けが十分でなく、技術者の説明もしどろもどろに……。しかし、事業部長は「それでは、これでいきましょう」と毅然として結論を出したのだそう。

投資額が大きく、失敗すれば責任を問われることが間違いない場面で、「それでもいま決めなければ、この案件は一歩も先に進まない。何もせずに結果が出せない状況に甘んじるより、失敗のリスクを取っても結論を出し、前進させなければ」と考える。水田さんは「日本人の感覚からすると、論拠がないまま結論を出すのは乱暴だと感じるかもしれません」としつつ、「リーダーたるもの、事業を強力に推進していくうえで、時にはこうした決断を下すことが必要になる場面もある」と分析している。

世の中が大きく変化し、大胆な方向転換も求められる時代。日本では合議で責任を分散させながらものごとを決定することが多いなかで、サムスン式の「とにかく決める」というリーダーシップのあり方にも、学ぶべき点がありそうだ。
 

非現実的なほどタイトで、高い目標計画を立てる

韓国では、「計画」や「目標」の持つ意味が日本とは異なる。水田さんはサムスンで、「どう考えてもこの通りに進められるはずがない」という目標=ストレッチゴールを定められるのが常だったという。

ストレッチゴールとは、現状の技術だけでは解決できない課題に対し、新たな技術を導入することを前提とした目標設定の方法。韓国エリートには、「開発途上で何か新しい技術が生まれるだろう」という、“スーパーポジティブシンキング”ともいうべき考え方があるのかもしれない。

日本人の感覚からすると、少し無責任にも感じてしまうが、少なくとも韓国では「できると思ったらやってみて、違ったらそのときに直せばいい」と考えられていて、日本人の「できると思ってやってみたからには、できないのは許されない」という考えとはギャップがある様子。日本企業の目標設定は、サムスンから見れば「やる気なし」に見えているという。

自己をアピールし、早く結論を出し、開発スピードを上げて、世界シェアトップを獲得する――それが、サムスンを始めとする韓国エリートの考え方のようだ。