壊れかけのロボットと、無気力に生きる主人公の再生の旅を描いた劇団四季のオリジナルミュージカル『ロボット・イン・ザ・ガーデン』が、4月16日(土)まで京都劇場で上演中だ。
本作は劇団四季が16年ぶりに手掛けた一般向けオリジナルミュージカルで、2020年に東京で開幕。雑誌「ミュージカル」の「2020年ミュージカル・ベストテン」で作品部門第1位に選出されるなど、注目を集める1作だ。原作は2015年に出版されたイギリスの同名小説。世界各国でロングセラーを記録し、日本では今年、映画版『TANG タング』も公開予定だ。
舞台は、アンドロイドと人間が共生する近未来。どこか哀愁をまとう小さな四角い旧式ロボットが、ある家の庭へとたどり着く。家の中では、弁護士の妻エイミーが慌ただしく出勤準備をする一方で、張り合いなく過ごす夫ベンの姿。両親を事故で亡くして以来、獣医になる夢も諦めて無気力に日々を過ごしている。庭のロボットを見つけ、興味を持つベンだが、エイミーには「粗大ごみ」にしか見えない。前を向いて歩きたいエイミーと、いつまでも前を向けないベン。ふたりの生活も気持ちも、距離は広がるばかりだ。
「タング」だと名乗るロボットは、人間の指示通りに動く“賢い”アンドロイドとは対照的。自由気ままに動き回り、時にはわがままを言ってベンを困らせるが、ベンはいつ停止するかもしれないタングを修理しようと、少しの手がかりを頼りにアメリカ、日本、そしてパラオと、国を超えた旅に出る。ふたりで修理の旅をしていく中で、さまざまな言葉や知識を吸収していくタング。タングを動かし、タングとして声を放ち、感情を表現しているのはふたりの俳優だ。操る姿は観客から見えている状態だが、観ているとその存在を忘れてしまうほど、タングの愛らしさに惹きこまれていく。
ベンとタングの旅は紆余曲折しながら進み、後半、思いもよらぬ展開を迎える。タングに隠された秘密が次第に明かされていくのもスリリングで面白い。狭い世界にとどまり前を向けなかったベンが、タングとの出会いをきっかけに外に飛び出し、タングを守ろうと懸命に駆け回る。さまざまな人たちと出会うことで、知らず知らずのうちにベンの心はほどけ、見失っていた大切な人への思いに気付く。閉じこもってばかりでは見つからなかった心の鍵。人との関わりや、相手を思いやることの大切さ。ベンが気付かされたように、心にじわりと届くものがあるはずだ。
京都公演は4月16日(土)まで、京都劇場にて上演中。チケット発売中。
取材・文:黒石悦子