カメラマン:源賀津己

本当にあったことを2時間以上もしゃべり倒すオリジナル話芸=鶴瓶噺の原点は、ラジオ番組と学生時代の喫茶店での雑談であるという。では、笑福亭鶴瓶にとってテレビの存在とは? 昭和26年うまれで、2歳の時に民放テレビが開局した芸人は、こんなエピソードから教えてくれた。

「ラジオは若手の頃から好きでしたけど、テレビは疑っていた時期がありました。こっちの実力がないからですけど、しゃべり方までああせいこうせいと言う人がいて……。僕も若くて生意気でしたから〝やかましいわ!〟と(笑)。だから、自分で自分のテレビを作る努力をしたんです。テレビなんですけど、言うたらライブというか。いまみたいに観覧者を募集するとかじゃなしに、自分で人を集めて番組を作ろうと企画したこともあって。そしたら、ごっついおっさんの声で〝おりゃー!〟と誰かが殴り込んできたんですよ。自分の番組で自分の企画だし、いかなしゃあないじゃないですか。〝なんやこらぁ!〟と声のするほうに向かっていったら、うちの師匠だったんですよ。〝え?〟ってなって〝すみません!〟と謝ったら〝よかったなぁ。お前がしたい番組ができて〟と言うてくれて。僕ですか? 号泣でした(笑)」

自分のテレビを作り、己の話芸をうみだす。鶴瓶噺そのものの原点ではないが、テレビとの向き合い方にもオリジナルを目指すという共通点があった。では、自分の名を冠する話芸=鶴瓶噺における〝個性〟の自己分析ならばどうか。

「動と静の表現があるとしたら、鶴瓶噺は静だと思うんです。テレビのようには派手にいかないですから。たとえば、70歳の高校の同級生が脳梗塞になったと。無事に治ったから会う約束をしたら、なぜかハリセンを持ってきて。〝お前らはよく俺の頭を叩くけどいまはまずい。だから、なんかあったらこれで叩いてくれ〟って(笑)。それはもうツッコんでくれということですから〝いま言葉に詰まったやろ?〟なんてハリセンで叩くのが、めちゃめちゃ楽しかったんです。派手じゃなく静な出来事ですけど、そんな70歳、おもしろいじゃないですか。いまではテレビも大好きですし、ずっと出ときたいですけど、鶴瓶噺の個性であり原点は、やっぱり喫茶店でのツレとの雑談なんでしょうね」

今年のテーマは「なにがなんだかわからない」になりそうとのこと。御殿場で出会った女性が思わず口にした言葉であり、もちろん本当にあった出来事がベースである。
「TSURUBE BANASHI 2022」は、4/13(水)~17(日)東京・世田谷パブリックシアターにて、4/20(水)~24(日)大阪・森ノ宮ピロティホールにて開催。


取材・文:唐澤和也