ライター/カメラマン:黒豆 直樹

株式会社スーパーエキセントリックシアターによる“演歌ミュージカル”「明日に唄えば~清き一曲お願いします~」が3月26日より開幕する。初日を直前に控えた稽古場にて行われた通し稽古の模様をレポートする。

人口減に悩む田舎の街を舞台に、商業施設の誘致の是非を焦点に行なわれる町議会議員選挙の模様を描く本作。冒頭、演歌歌手の夢破れて東京から故郷に帰ってきたヒロイン・千春が未練を漂わせつつ力強く歌う「ごめんね東京」で幕を開ける。

“演歌ミュージカル”と銘打つだけあって、劇中の随所で登場人物たちがそれぞれの心情を乗せて演歌を歌い上げるが、オリジナル楽曲に加え、水前寺清子、新沼謙治、八代亜紀などの誰もが聞いたことのある名曲が次々と流れる。「どんとやれ 男なら~♪」(「いっぽんどっこの唄」)、「嫁に来ないか ぼくのところに~♪」(「嫁にこないか」)などの“昭和”の香りのする歌詞と哀愁あふれる街の様子と絶妙にマッチし心地よく響く。

物語の軸になるのは町会議員選挙。有力議員・根来川の下で働き始めた千春だったが、昔ながらの利益誘導、男社会の町政に疑問を抱き、自ら選挙に立候補する。千春が立候補を決意するきっかけになるのが、商業施設が誘致されたらなくなるかもしれない商店街主催の夏祭り。ここで美空ひばりの「お祭りマンボ」が流れると、一気に舞台全体のテンションがアップ! ちなみにその後、千春が飛び入りのカラオケ大会で観衆の心を掴むシーンでも、美空ひばりの楽曲が使われている。

千春を演じるのはAKB48を卒業後、演歌歌手として着実にキャリアを積み重ねてきた岩佐美咲。彼女の前に立ちはだかる町会議員・根来川をモト冬樹が演じているが、自らの頭髪をネタにしたアドリブを挿入するなど、時にコミカルな面を見せつつ、“いかにも”な昭和のオジサン議員を体現し、さすがの存在感を見せつけている。

“選挙”と“祭り”を組み合わせた構成も見事。「選挙とは、民主主義の根幹をなす制度であり、未来を選択するための…」という正論以前に「選挙とはお祭りである」という“真理”を我々は現実の世界でもたびたび目の当たりにしてきた。一方で、選挙が行われるたびに、投票率の低さが話題となるが、本作ではそうした社会的な問題にも触れつつ、大音量の演歌に乗せて、選挙というお祭りを一大エンタテインメントに仕上げている。