タイトルを聞いただけで、宇宙空間を駆けていくレトロな列車、長い金髪の謎の美女メーテルの姿が目に浮かぶ人も多いだろう。松本零士の国民的漫画を原作にしたミュージカル『銀河鉄道999 THE MUSICAL』が4月8日、東京・日本青年館ホールで開幕した。
人類が肉体を機械に変えることで永遠の命を手にしている未来が舞台。しかしそうして裕福な人々が永遠の命を謳歌する一方で、高価な機械の体を買えない貧しい者たちとの社会格差は広がっている。そんな中、母親を機械伯爵に殺された少年・星野鉄郎は、謎の美女メーテルに出会い、機械の身体をタダでくれる星を目指し銀河鉄道999号に乗車する……。
主人公・星野鉄郎を演じるのは中川晃教。2018年、2019年に続き3度目の鉄郎役だが、今回はこれまでの“舞台版”ではなく、初の“ミュージカル版”。音楽監督にはゴダイゴのミッキー吉野を迎え、劇中ではゴダイゴが歌ったあの名曲「銀河鉄道999」も初めて使われる。同時に、各キャラクターが葛藤や決意といった心情を歌に乗せて吐露する場面も多く、過去の舞台版に比べて、よりキャラクターの深みが増した印象だ。さらに、原作にはない鉄郎の父親のエピソードを盛り込むことで「思いを繋ぐ」という大きなテーマを浮き上がらせた。中川の鉄郎は透明感がありつつも鋭い強さのある歌声を武器に、少年らしい真っ直ぐな純粋さと、どこか影のある達観した視点、子どもらしからぬ紳士的なふるまいを自然と同居させ、“星野鉄郎だからこその強さ”で、父から繋がる思いをしっかり受け止める。そしてキャプテン・ハーロック役の三浦涼介、クイーン・エメラルダス役の北翔海莉、大山トチロー役の藤岡正明らが、原作を抜け出したかのような造形で魅せるとともに、限りある命を生きることの尊さをその姿で体現し、鉄郎へ続く“思い”を渡していく。
同時に、メーテルの葛藤や罪といった面も丁寧に描かれる。演じる花總まりはこの人らしい浮世離れした美しさで、体温の低そうな“謎めいた女性”として登場するも、母・プロメシュームとの邂逅前後から見せる葛藤は生々しく、新鮮。ラスボス感たっぷりに演じるプロメシューム役の松本梨香の迫力とともに、この母子の宿命はこのミュージカル版の見どころのひとつになっている。鉄郎の敵役の機械伯爵も、知られざる悲しい過去が描かれ、切ない存在に。佐藤流司が二面性のある役柄を熱演した。ほか、車掌役の徳永ゆうき、ガラスのクレア役の梅田彩佳、リューズ役の矢沢洋子らも好演していた。
初日に際し中川は「登場人物たちに共通する命尽きるまで終わらない人生とお客様ご自身の人生を重ねながら観ていただけたら」とコメント。公演は4月18日(月)まで同劇場にて上演される。
取材・文:平野祥恵