
【木村ヒデノリのTech Magic #105】 ドローンもついにここまできたかという印象だ。少し前まで4Kすら難しかった撮影用ドローンだが、DJIが送り出す新世代のドローンは予想の何倍も凄かった。 「DJI Mavic 3(以下、Mavic 3)」はセンサーこそフルサイズではないもののマイクロフォーサーズを採用。最大5.1Kでの撮影ができ、有効画素数も20MPとかなり高画素。ハイエンドモデルではApple ProRes 422HQでの収録も可能となっている。フレームレートは5.1K収録時でも50fpsまで対応しており、秒間24フレームのシネマライクな作品にするならば1/2のスローモーション表現もできる。
センサー類やバッテリも強化され、まさに死角のない布陣。前回書いた筆者のドローン免許取得のきっかけとなった実用最強ドローンだ。発売自体は昨年末だが、今年1月にファームウェアアップデートまでは全ての機能が使えなかった経緯があるので、今回はそこから3か月じっくり使い込んでみた所感を共有したい。
バッテリの大容量化で大幅に使いやすくなった撮影用ドローン
Mavic 3 Cineでまず注目したいアップデートはバッテリの大容量化だろう。これまではフラッグシップの撮影用ドローンでもカタログスペックで30分弱、実測では良くて20分台後半という状況だった最大飛行時間だが、Mavic 3 Cineではそれが大幅に伸びた。カタログスペックではなんと46分、実測でも平均40分は飛ばせるようになり、撮影時間にかなりの余裕ができた。
空撮してみるとわかるのだが、慣れていても良いカットを取るために同じルートを何度も飛ばすことがある。初めて飛ばす場所などだと、ロケハンもそのタイミングですることになるので、20分程度しか飛ばせないとなると1本は下見用に使わなければならない。これが40分となると一度着陸させずに下見からそのまま撮影に入れるので、時間のない撮影時にはかなり重宝した。
朝夕の景色は分刻みで刻一刻と変化していく。バッテリーに不安があるとこういう一瞬を逃してしまうことがあったが、1本で40分も飛ばせると上空で待つことができるため、そうしたこともない。数分の違いが撮影体験を大きく変えてくれる画期的なアップデートだ。
最上位では1TB SSDを内蔵、ProResで一体化する編集ワークフロー
もう一つの大きなアップデートは、SSD内蔵モデルがラインアップされたことだ。これまでmicroSDへの記録が主流だったが、SSDになることで大容量のデータを高速で書き込みできるようになった。今回筆者が購入したMavic 3 CineではこのSSDが採用されたことでApple ProRes 422HQでの撮影が可能になり、撮影から編集までのワークフローがよりシームレスに行えるようになった。
ProResで撮れると何がすごいの?という声が聞こえてきそうだが、これによる恩恵は編集時に発揮される。ProResで撮影された動画ならば、スペックの低いPCやノートPCでもサクサク編集できるのだ。もちろんこれまでのH.264(よく動画を撮るとmp4という拡張子になっているのは大体これ、圧縮されていて容量が小さくて手軽なのが特徴)などでも変換すればProResになるのだが、時間が膨大にかかる。特に空撮は長尺で撮ることも少なくないので、最初からProResで撮影できるメリットはかなり大きい。
最近発売されたパナソニックのミラーレス一眼「DC-GH6」でもProResでの収録が採用されるなど、PCのスペックに依存せずにサクサク編集できるProRes形式は今後のメインストリームになりつつある。これまで空撮だけは変換が必須だったが、Mavic 3 Cineではこれが必要ない。FlyMoreコンボと数十万円差があるにも関わらず即決でCineに決めたのもこれが理由なので、購入を検討している読者にはぜひ知っておいてもらいたいメリットだ。
映像がとにかく綺麗、Hasselbladブランドが伊達じゃなくなってきた
これまでもカメラに燦然と輝いていたHasselbladのロゴだが、今回は伊達ではない。特に12.8ストップのダイナミックレンジを4/3型センサーという小ささで実現した点はHasselbladで培われた技術が活かされた賜物と言って良いだろう。明部・暗部ともにディテールが失われない性能は、以前紹介した907Xなどの中判シリーズを彷彿させる。
また、調整なしでも綺麗に色が再現されるのも良い。通常撮影ならログ撮影をして、後から色をという対応もできるが、タイムラプスなど特殊な撮影においてはその時撮れる色が使われる。これまでこういった画質を実現するには大型のドローンにミラーレス一眼を搭載して撮らなければならなかったが、Mavic 3はここまでの画質を手軽に飛ばせるサイズで実現している。持ち運びたくなる大きさでこの画質が撮れるのは今までのドローン事情を考えると異次元の進化と言えよう。
付属品やアクセサリーもちょうど良い、実用的なラインアップが魅力
基本性能の高さに加えて魅力的なのが付属品やアクセサリーだ。コンボに含まれるNDフィルターやバッテリーは多すぎず実用的なラインナップ。またCine Premiumコンボには高輝度ディスプレイ一体型のRC Proも含まれるので、さっと飛ばせてすぐに高品質な映像が撮れる。また純正アクセサリで画期的なのが専用広角レンズだ。0.65倍、焦点距離15.5mmの 広角レンズを装着すると今までにない画角の収録ができる。
さらにサードパーティ製で品質の高いフィルターが選択できる点もMavic 3を選ぶ理由のひとつ。品質の高さは折紙付きのPolarProからCPL、VNDなど各種フィルターのほか、Mistなど雰囲気を出せるものもリリースされている。Mavic 3くらいの画質になってくるとフィルター類にこだわった分だけ品質に返ってくるためこうした選択肢が純正以外にあるのも非常に良い。
購入を決めた瞬間から特にこれといった欠点の見当たらなかったMavic 3だが、3か月使ってみてさらに満足度が高まった。ここまでの映像が撮れる民生機は他にないし、何より飛ばして撮影するまでのフローがどのドローンより手軽だ。保険も含めると60万円オーバーのCine Premium コンボだが、次世代の実用性を感じたいのであれば間違いなくこれを選びたい。
撮影業務をしていない方でも、空からの記録は他の風景に変え難いものがあるので筆者のように免許を取ってでも導入する選択肢もありなのではないだろうか。現状、国内のドローン撮影に関する環境はやさしくないが、それを踏まえても買ってしまいたくなる非常に完成度の高い製品だった。(ROSETTA・木村ヒデノリ)
木村ヒデノリ
ROSETTA株式会社CEO/Art Director、スマートホームbento(ベントー)ブランドディレクター、IoTエバンジェリスト。
普段からさまざまな最新機器やガジェットを買っては仕事や生活の効率化・自動化を模索する生粋のライフハッカー。2018年には築50年の団地をホームハックして家事をほとんど自動化した未来団地「bento」をリリースして大きな反響を呼ぶ。普段は勤務する妻のかわりに、自動化した家で娘の育児と家事を担当するワーパパでもある。
https://www.youtube.com/rekimuras
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