撮影:ヒダキトモコ

「ブロードウェイミュージカル『RENT』25周年記念Farewellツアー来日公演」が、5月18日に東京・東急シアターオーブで開幕した。

『RENT』は20世紀末の米ニューヨークを舞台に、HIV感染症や友人の死、ドラッグや同性愛といった社会的困難に直面しながらも懸命に生きる若き芸術家たちの姿を描いたミュージカル。オフ・ブロードウェイでの初演(1996年)を経て、ブロードウェイ進出後に約12年ものロングランを記録し、世界で上演されている青春群像劇だ。オリジナル演出版の来日公演はコロナ禍を超えた4年ぶりで、初演20周年を記念して立ち上がった全米ツアーの集大成となる。

演出には、初演のマイケル・グライフ版が採用されている。固定セットかつ映像効果の活用は最低限で、それだけにキャストの肉体や歌声が際立った。2幕冒頭の名バラード「Seasons of Love」をはじめ、疾走感あふれるロックチューン「Rent」、自由を求める芸術家の大騒ぎ「La Vie Boehme」ではカンパニーの一体感を目の当たりに。中でも作品に通底する“No Day But Today(大切なのは今この瞬間)”のメッセージに集約されていく「Another Day」が聴かせる。

ミミがロジャーにモーションをかける「Out Tonight」では、振り乱した髪からラメが舞う迫力のパフォーマンス。奔放なモーリーンの元カレ・マークと今カノ・ジョアンが不本意ながらも意気投合する「Tango: Maureen」では二人の踏むタンゴのステップが楽しい。エンジェルとコリンズが愛を誓う「I'll Cover You」は悲しいリプライズに注目だ。一曲一曲が各キャラクターの抱える葛藤やドラマに満ちており、目と耳が離せない。

キャストの躍動感で魅了するステージには、ドキュメンタリー作家を目指すマークが撮影した映像がリアルタイムでうつし出され、キャストを乗せた美術セットが動くなど劇効果にあふれた新演出版には見られない素朴なシンプルさがある。本作の作詞・作曲・脚本を手がけたジョナサン・ラーソンの半生を映画化した『tick, tick...BOOM!』(2021年)で彼が覗かせた初期衝動が形になっているようにも見受けられ、感じ入った。

開幕に際して、ロジャー役のコールマン・カミングスは「コロナ禍でも劇場で待ってくれている皆さんの存在が自分の支えになりました」とコメント。2018年の来日公演にアンサンブルで出演したマーク役のJ.T.ウッドは「生きることの大切さを謳う『レント』で劇場に戻って来ることができて幸せです」と観客にメッセージを送った。オリジナル演出と本カンパニーにFarewell(お別れ)すべく、今この瞬間しかないラストチャンスを見届けてみては。

上演時間は約155分(20分休憩を含む2幕)。公演は5月29日(日)まで。

取材・文:岡山朋代