撮影:引地信彦

現在上演中の舞台『室温~夜の音楽~』において、初日公演を鑑賞した。

ケラリーノ・サンドロヴィッチが2001年に作・演出したホラーコメディで、翌年に鶴屋南北戯曲賞を獲得した本作。河原雅彦が演出を手がける今回の上演版では古川雄輝が主演を務め、在日ファンクが音楽・演奏で参加する。キャストには平野綾、坪倉由幸、浜野謙太、長井短、堀部圭亮、伊藤ヨタロウ、ジェントル久保田が名を連ねた。

ホラー作家の海老沢十三(堀部)と娘のキオリ(平野)父娘は田舎暮らし。12年前、拉致・監禁の末、集団暴行を受け殺害されたキオリの双子の妹・サオリの命日に、近所を巡回中の警察官・下平(坪倉)、海老沢の熱心なファンを自称する赤井(長井)、体の不調を訴えるタクシー運転手の木村(浜野)が転がり込む。そこへ出所した加害者の一人である間宮(古川)が「焼香をしたい」と訪ねて来たことから、事態は思わぬ方向へ発展して──。

妹を「この世から葬った」と激昂するキオリに萎縮したかと思えば、初対面でない赤井には声を荒げるなど、相手によって言動を大きく変える間宮。演じる古川は向き合う相手の一挙手一投足をニュートラルに受けて応戦する巧みさを発揮した。被害者の家族や周囲の人々に対して強く出られないという立場上、感情を剥き出しにするシーンは少ないが、表情や間といった台本上セリフに起こされない“オフ芝居”に注目したい。

キオリを演じる平野も、単なる被害者の姉にとどまらない存在感を見せつける。キオリは何かと海老沢家に立ち寄る下平に金銭を求め、「東京へ行く」と嘘をついて母親に会うなどひと筋縄ではいかないキャラクター。間宮を冷たくあしらう声色、媚態の一歩手前で下平を籠絡する視線など出色の表現力で劇世界に貢献していた。なお持ち前の歌声はカーテンコールで耳にすることができるだろう。

事前の取材会で河原が言及したように、サオリの死は東京・埼玉で発生した実在の「女子高生コンクリート詰め殺人事件」(1988~89年)がモチーフとなっている。事件の痛ましい描写をはじめ、得体の知れないキャラクターが生み出す薄気味悪さ・違和感が全編に潜む一方で、時折挟まれる在日ファンクの生演奏パフォーマンスが作品にサイケデリックな“陽”の雰囲気を持ち込む。グルーヴ感に満ちた彼らの既存曲や本作に書き下ろしたナンバーが不条理な空気をいかに転化させるか──。バンドと役人物を行き交い、劇中でコミックリリーフ的な役割を果たす浜野の躍動にも注目だ。

上演時間は約155分(20分休憩を含む2幕)。公演は7月10日(日)まで、東京・世田谷パブリックシアターにて。その後、7月22日(金)~24日(日)に兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホールと巡演する。チケット販売中。

取材・文=岡山朋代