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――昔は「ヴィジュアル系は差別用語だから頑張って認められなければ」みたいな意識があったかもしれない。それが、今の子達は小学生くらいの頃から「ヴィジュアル系」がテレビに出ていた世代じゃないですか。ジャンルのひとつとして認知されているところから始まっているから、屈託なく捉えている部分はあると思います。もちろん音楽ジャンルごとの差別が完全に無いわけではないですが。
市川:だから「戦後」みたいなものですよ。戦争を体験した世代と平和な時代に生まれた世代では、太平洋戦争に対する認識が全然違う的な。アレに近いと思うんだよ――って俺はおっさんか。はい、おっさんです(失笑)。
もっと言うと、かつてのV系は「とにかくメジャーでド派手にデビューする!」的な意識を強烈に持ってたでしょ。もう雑誌にカラー大量出稿、メジャー・デビュー・ライヴ@武道館、湯水のようなTVスポットが当たり前。とにかく宣伝費かけまくりがステータスのような、奇妙な成り上がり感というかさ。今思えば世間や音楽シーンに対する過剰なまでの自意識の産物なんだけども、「俺達はここまで命削って金をかけてやってんだコラ!」みたいな戦闘心があったと思うんだよ。
でもいまの子たちは、そんなことに微塵も魅力を感じないから、先達のようにこだわってない。メジャーデビューしてもレコード会社から契約金なんて貰えるような時代でもないし、インディーズの方が実は印税もよかったりする。その時点でなんかもう、初期衝動が違うんだよね。さっきから言ってる世代の違いって、おそらくそういうことに起因するんだよね。
最近のV系バンドのCDジャケットやPVを見ても、制作費が全然かかってないじゃない? 技術の進歩と言えばそれまでだけど、かつてのV系って金かかってナンボみたいなところがあったじゃない? 無駄にデカい会場で無駄に豪華なセットを組んで、みたいな。そういう意味でも同じV系でも別物というか、思えば遠くへ来たもんだとしみじみ感じてはいます。
――ファンの方も、昔は100メートル先から見てもヴィジュアル系のファンだとわかるファッションをしてる人が多かったけど、最近はそうでもなくなってきてますしね。
市川:私はいま某女子大で講義もしてるんですけど、一応何人かはV系少女がいて。たしかにバンギャの子たちの格好が普通になってきてるよね? ライヴに行く日こそ多少それっぽいけど、普段からV系の匂いをプンプンさせてたりしない。逆にフェミニンだったりするもの(失笑)。
でね、かつてのV系といまのV系の違う点がもう一つあるんですよ。ファンに対しての目線の違い。
――と、言いますと?
市川:「上から目線」か「下から目線」かでしょ。かつてのV系バンドはそりゃあもう上から目線で、「てめえらかかってこいよオラ!」。「俺らは特別、お前らは下僕」とファンをSLAVE扱い。懐かしいなぁ(失笑)。
ところが今では、ファンがバンドを完全に見下している。自分たちで振り付け考えて動画にして、「皆で踊ろうよ♪」と客のご機嫌とったり、ブログやツイッターで素の自分を大盤振る舞いしたり――この安いホストクラブみたいな下僕感は、昔じゃありえない(爆失笑)。「俺様感」が完全に失くなったなぁと。これだけ素の自分を発信しちゃったら、何の威厳も神秘性も無い。