
新国立劇場による、夏休み恒例の「こどものためのバレエ劇場」がまもなく開幕する。今年の演目は、2010年から2014年まで同劇場の舞踊芸術監督を務めた世界的振付家、デヴィッド・ビントレーの人気作『ペンギン・カフェ』だ。舞台を牽引するペンギン役を日替わりで踊る、新国立劇場バレエ団ファースト・ソリストの池田理沙子、ファースト・アーティストの広瀬碧に話を聞いた。
今回、初めてこの役に取り組む池田は、「その在り方次第で、作品の重みが左右される重要な役。しっかりメッセージを伝えられるよう、舞台をつくっていきたい」と意欲的。今年1月に続いて二度目の挑戦となる広瀬も「この役を踊るうえで大事にしていることをしっかりやりたい」と前向きだ。
本作は1988年、ペンギン・カフェ・オーケストラの音楽に触発されたビントリーが、英国ロイヤル・バレエ団で創作。新国立劇場では2010年にレパートリー入りし、大人の観客たちを楽しませてきた。作品のシンボルともいえる可愛らしいペンギンがいざなうのは、ユニークな被りものやメイクの動物たちが繰り広げる、色とりどりのダンスの世界。皆、絶滅危惧種の動物たちだ。「私たちは絶滅危惧種や環境問題について目を背けがち。この作品には、そのことをちゃんと見て、変えていこうよというメッセージがこめられている」と話す広瀬。伝わるかどうか──ペンギンが担う役割は大きい。「最初のシーンで、愛されるキャラクターになれるかどうかが重要だと思っています」。
二人が演じるのは、動物園や水族館にいるペンギンではなく、19世紀半ば、人間の乱獲により絶滅した原初のペンギン、オオウミガラス。ラストシーンでは、嵐の中、箱舟に乗り込んだ動物たちを寂しげに見送る姿が胸を打つ。
が、ビントリーの語り口に重々しさはない。「後半のカーニバルの場面は、ペンギン以外の動物が全員集合して、最高潮に盛り上がります。こどもたちもきっと喜んでくれるはず!」(池田)、「40分間のほとんどすべてが楽しい気持ちに!」(広瀬)と語り合う二人も実に楽しげだ。「それでいて、心に響くものがある」と広瀬。池田も「人間による環境破壊はむしろ加速している。この舞台が、意識を変えて、行動に繋げていくきっかけの一つになってくれたらと思います」と思いを明かした。
公演は7月27日(水)から31日(日)まで、新国立劇場オペラパレスにて。チケットは発売中。
文:加藤智子