記者会見より 写真左から:平原慎太(振付)、キハラ良尚(指揮) (C)Masanobu Nishino

現代音楽マニアの占有にする手はない。
10月8日(土)9日(日)神奈川県民ホールで上演される、ミニマル・ミュージックの巨匠フィリップ・グラス作曲《浜辺のアインシュタイン》は2025年の開館50周年記念オペラ・シリーズ第1弾。記者会見が開かれ、演出を手がける振付家の平原慎太郎や指揮のキハラ良尚らが出席した。

《浜辺のアインシュタイン》はグラスと演出家ロバート・ウィルソンの共作で、1976年に初演されて現代の舞台芸術に大変革をもたらした伝説の作品。物理学者アインシュタインがテーマではあるが、登場人物に明確な役柄はなく筋書きもない。歌詞は数字と音名(ドレミ)だけ。休憩なしの4時間ノンストップ上演(今回はその意図に配慮しつつ休憩が入る)。連続する時間・空間・動きの解釈は聴衆に委ねられる。しかしその破天荒さだけに目を奪われてはいけない。演出の平原は言う。
「(上演時間とか反復とか物語がないとか)外側の〝枠〟の情報ではなく、作品が生まれた時代背景を追求し、現在の日本に沿わせて制作したい。アメリカン・モダン──アメリカが自分たちの文化をどう獲得するに至ったのか。当時はベトナム戦争や女性解放の時代。秩序と混沌が繰り返されるかのように、それが今また繰り返されている。現在の日本の状況に合ったもの、希望のある作品にしたい」
モティーフを執拗に反復するミニマル・ミュージックは、もともと無調音楽に対するアンチテーゼだから、じつは調的で聴きやすい。80年代以降のテクノやトランスなど、クラブ・ミュージックもその影響を受けているぐらいだ。指揮のキハラも「音の洪水に包まれるような印象。ディスコなど、ロックの要素も大きい音楽」と紹介した。前衛オペラの金字塔ではあるけれど、聴衆に現代音楽の専門的な知識などは必要ない。
公演キャッチは「これはオペラか?ダンスか?演劇か?」。それらの総合アートでもあるし、どの入口から入っても楽しめるとも言える。いわば多様性の元祖。台詞を担当する俳優の松雪泰子と田中要次や、バレエ・ダンサー中村祥子、ヴァイオリニスト辻彩奈(アインシュタインはヴァイオリンを弾いた)など、多彩な出演者を得て、刺激的な舞台になるのは間違いない。器楽の編成は電子オルガン2、フルート3、バスクラリネット、サクソフォン2。合唱(独唱含む)は東京混声合唱団。宣材イラストを『AKIRA』の大友克洋が描き下ろしている。
(宮本明)