草木染作家の坪倉優介氏が過去に交通事故で記憶喪失となり、「食べる」「眠る」などの感覚すら忘れてしまった体験を綴った著書をミュージカル化した「COLOR」。
9月5日の初日が迫るなか稽古が公開され、3つのシーンがいち早く披露された。坪倉氏がモデルのソウタ役には浦井健治と成河、その母・ヨウコには濱田めぐみと柚希礼音。浦井×柚希、成河×濱田の2チームに分かれて上演される。
抜粋された中には2チームが同じシーンを演じた箇所もあり、わかりやすく比較することもできたのだが、親子関係の見え方が明確に異なる印象。たとえば、一方は友達親子のようであり、一方はもう少しドライで互いが自立した親子関係であるというような。4人のよく咀嚼し練られた演技に触れると、劇中では描かれない事故以前の関係性などへも想像が豊かに膨らむ。ちなみに相手チームの表現に影響されすぎることがないかと聞くと、「観ていると楽しすぎて分析して観るようなことができないから、今回はそんなに影響されないですね」と濱田。ヒット曲「トイレの神様」の植村花菜が手掛けた音楽は、言葉と気持ちが観る者にスッと入ってくる素直なメロディ。柚希曰く、「歌うと難しく感じますが、、聴くと歌詞がスポンと入ってきて、ぽかぽかとピュアな気持ちになります。それはきっと花菜さん自身がピュアで、役の思いで曲を作っているから」。
初日まで2週間あまり(取材時)。一刻も惜しいはずの新作ミュージカルの制作現場だが、地に足の着いた時間が流れている印象で、現場が何よりこの作品の創作を楽しんでいる。「“みんなで作る”って、ただただ面倒で全然簡単なことじゃない(笑)。その“みんなで作る”がここまで極まったカンパニーってそうそうない」と百戦錬磨な成河は言い切り、「お客様に観ていただくのは当然楽しみなんですが、作ることの喜び、それこそが本当の醍醐味だということを僕は今回学んでいます」と、浦井も応えた。
そして、「ゴールはない。探し続ける、何かを。その何かをお客さんと共有できるかというのを僕も楽しみにしています!」と、成河から力強いメッセージ。その“何か”の、観客それぞれのCOLORを確かめに、ぜひ劇場へ。
取材・文:武田吏都