『ブレット・トレイン』

『ブレット・トレイン』(9月1日公開)

 なぜかいつも不運な出来事に遭遇してしまう、運の悪い殺し屋レディバグ=てんとう虫(ブラッド・ピット)。ブランクからのリハビリを兼ねて彼が請け負ったミッションは、東京発の超高速列車内でブリーフケースを盗み、次の品川で降りるという簡単な仕事のはずだった。

 ところが、盗みは成功したものの、なぜか列車に乗り合わせた殺し屋たちから命を狙われ、列車から降りるタイミングを逸してしまう。列車はレディバグを乗せたまま、世界最大の犯罪組織のボス、ホワイト・デス(マイケル・シャノン)が待ち受ける終着点・京都へ向かってばく進していく。

 伊坂幸太郎の小説『マリアビートル』を、『デッドプール2」(18)のデビッド・リーチ監督が映画化したクライムアクション。

 まず、思わず「これが日本なのか! 新幹線なのか!」といいたくなるようなイメージに驚かされ、失笑させられるのだが、これは、例えば、ひと昔前の、無理解故に妙な日本を現出させた映画とは違い、意図的に様式化し、わざとデフォルメした日本のイメージなのだと思う。だから、真田広之とアンドリュー・小路が演じた日本人親子の姿も、とても変なのだが、笑いながら見られるのだ。

 そして、一見バラバラに見える雑多な登場人物たちが、実はつながりがあるところ、入り乱れる時間軸、ディテールへのこだわり(例えば「ステイン・アライブ」「時には母のない子のように」「500マイルもはなれて」「上を向いて歩こう」といった曲の挿入)、バイオレンス満載のオフビートな悪ふざけなどは、クェンティン・タランティーノの諸作をほうふつとさせるところがある。

 ただ、ノンストップの閉ざされた列車内で繰り広げられる別々のドラマが、実はつながっているというアイデアの面白さを、消化し切れていないように感じた。ブレット・トレイン=弾丸列車を舞台にした映画としては、タイプは違うが、日本の『新幹線大爆破』(75)の方が、止まれない超高速列車という設定を生かしていたと思う。

 サンドラ・ブロックが、ちょっとした役で登場するのは、自身の主演作の『ザ・ロストシティ』にブラピが出てくれたことへの返礼らしい。そのほか、車掌役として、アメリカで活躍する日本人俳優のマシ・オカ、そしてリーチ監督ゆかりの“あの男”も顔を出すなど、にぎやかな映画であることは確かだ。

(田中雄二)