
坂本昌行がパルコ・プロデュース2022『凍える』で主演を務め、連続児童殺人犯に扮する。
ハードな難役に向き合う稽古前の心情を語ってもらった。
ブライオニー・レイヴァリーによる戯曲『凍える』は、1998年にイギリスで初演されたヒューマンサスペンス。2004年には米ブロードウェイでも上演され、同年のトニー賞演劇作品賞にノミネートされた。劇中では20年前に行方不明になった少女ローナをめぐって、連続児童殺人犯のラルフ、ローナの母ナンシー、精神科医アニータがそれぞれに向き合う様子が描かれる。今回は栗山民也が演出を手がけ、ラルフ役を坂本昌行、ナンシー役を長野里美、アニータ役を鈴木杏が務める。
坂本は「この作品で起こる悲しい出来事を前面に押し出すのではなく、登場人物が抱えている心の痛みや闇をしっかりお見せすることで、お客さんの心に何かを問いかけたい」と語る。とはいえ戯曲の冒頭が登場人物による“独白”で占められる本作。セリフを交わすことで各キャラクター像が自然と浮かび上がる会話劇と比べて、アウトプットが封じられている感覚に陥ることはないのだろうか──?
「劇中でラルフが連続児童殺人犯になった経緯が語られることはありません。でも気迫がこもった登場人物の独白を通じて“ひょっとしたら過去にこんなことがあったのかな”と観客の皆さんにイメージさせることはできる。そのために彼が幼少期に受けた“傷”を深く考えながら役と向き合っていきたいですね」と坂本。「誰しもこの世に産まれた瞬間から凶悪ではないですし、純真無垢だった時期もあるはず。周りの環境に左右されてしまった側面もあるでしょうし、ラルフがそこへ至った経緯をしっかり考えたい」と続く。
折しも、栗山は登場人物の内面を克明に見せる硬質な人間ドラマに定評がある演出家。坂本とは、彼の初舞台でもあるミュージカル『阿国』(1992年)以来の創作となる。「先輩キャストの方々に『もっとないのか』『他にもあるだろう?』と投げかけていた栗山さんの演出がとても印象的で。ものづくりに徹底して向き合うプロ集団の凄みを実感し、舞台の魅力にハマった現場でした」とデビューする前の若手だった当時を振り返った。30年ぶりのクリエーションに対して「聴く耳を大きく広げ、栗山さんとの議論でラルフ像を構築していきたい」と意気込んだ。三者三様の独白後、繰り広げられる長野ナンシーや鈴木アニータとの“対峙”にも注目したい。
公演は10月2日(日)~24日(月)に東京・PARCO劇場にて。その後、福島・兵庫・愛知・長野・新潟・福岡・沖縄と巡演する。チケットは発売中。
取材・文:岡山朋代