写真提供:公益財団法人東京二期会 撮影:西村廣起

1952年創立。今年70周年の東京二期会の秋からの新シーズンがプッチーニ《蝶々夫人》で幕を開ける。初日を2日後に控えた9月6日(火)のゲネプロ(最終の通しリハーサル)を取材した。
栗山昌良演出の美しい舞台。幾度も再演を重ねている定評あるプロダクションは、二期会の大切な財産だ。96歳のレジェンドは、この再演でも直接指導に当たったという。しだれ桜や、背景画の役割も果たす金屏風。障子越しのやわらかな光。そして着物姿の歌手たちの細部まで練り込まれた所作や間。伝統的な日本の美がプッチーニの音楽と絶妙に結合している。
そのプッチーニを鮮やかに描き出すのが指揮者アンドレア・バッティストーニだ。オペラ界のトップ指揮者として世界を駆け巡る現代の巨匠。キレキレの序奏からいきなりドラマに引き込まれる。よく歌う甘い旋律。終幕へ向かってどんどん切羽詰まっていく緊張感も緩みなく伝わってくる。
それに応える歌手陣の水準は高い。この日は公演初日&3日目の出演陣によるゲネプロで、蝶々さん役(ソプラノ)は同役でゆるぎない高評価を得ている大村博美。ピンカートンの愛を信じ続ける強さから、裏切られた絶望と慟哭まで、声の表情で見事に表現する。ピンカートン役(テノール)は宮里直樹。深く考えずに現地妻を娶る第1幕の軽薄さと、第3幕で自らの犯した罪に後悔するさまを、こちらも巧みに歌い分けた。山下牧子が演じるスズキ役(メゾ・ソプラノ)の存在感もすごい。
一方、公演2日目&4日目にも、日本を代表する蝶々さん役の一人である木下美穂子が出演。こちらも役と一体化した声の演技を聴かせてくれるはず。ピンカートンは城宏憲。彼も宮里も現在の日本のテノール界を牽引する中堅世代の旗手だが、声のキャラクターや歌のスタイルは異なるので、その違いを聴き比べるのも面白そうだ。
二期会《蝶々夫人》は9月8日(木)9日(金)10日(土)11日(日)の全4公演。新国立劇場オペラパレスで。上演時間は第1幕後の休憩1回を含めて約2時間50分。
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なお、この日のゲネプロ前に記者会見があり、早くも2023/2024シーズンの公演ラインアップが以下のように発表された(演目名の後の※印は新制作上演)。
[2023年10月]ヴェルディ《ドン・カルロ》※(イタリア語・全5幕版)アンドレア・バッティストーニ指揮/ロッテ・デ・ベア演出
[2023年11月]ヘンツェ《午後の曳航》※ アレホ・ペレス指揮/宮本亜門演出
[2024年2月]ワーグナー《タンホイザー》アクセル・コーバー指揮/キース・ウォーナー演出
[2024年5月]ヘンデル《デイダミア》※(二期会ニューウェーブ・オペラ劇場)鈴木秀美指揮/中村蓉演出
[2024年7月]プッチーニ《蝶々夫人》 ダン・エッティンガー指揮/宮本亜門演出
「新しいことを次々と 東京二期会」をスローガンに、創立100年を目指しての新たな一歩を踏み出す。
(宮本明)