両目の眼球がなく、重度の障害を抱えて生まれた少女・千璃(せり)。ニューヨークで暮らす親子の実話をもとに描くオリジナルミュージカルだ。夫婦の葛藤、医療裁判、度重なる手術…多くの苦しみを超えて育まれた、愛と希望の物語。原作は実在の千璃の母・倉本美香が書いた手記『未完の贈り物』。千璃にはE-girlsを経た山口乃々華が得意の身体表現で難役に挑む。母・美香には舞台を中心に活躍する実力派の奥村佳恵、父・丈晴は2.5次元作品で人気の和田琢磨。ほかに植本純米ら出演者たちが親子に関わる複数の役を演じ分ける。演出は、振付に定評のある下司尚実が初めてミュージカルに挑戦。桑原まこによる約30曲の楽曲が出そろった9月下旬、稽古場で3シーンを紹介、オンラインで見学した。
『conSept Musical Drama #7 SERI~ひとつのいのち』チケット情報
笑顔の多い明るい稽古場で、まずはプロローグから。“愛してる何もかもを。でも誰よりも孤独。そんな命の話聞いて。~これはきっとあなたの物語”と千璃が歌う。山口の透き通った歌声に奥村が絡み、桑原の美しく優しいメロディに乗って全員の歌とダンス。脚本・歌詞は高橋亜子で、歌とセリフの境界線を無理なく超える。コンテンポラリーダンス初挑戦の山口は、千璃の心の声を身体表現で流れるように綴る。次に、千璃と名付け、初めての子供を待つ幸せな夫婦のシーン。奥村と和田のデュエット。ふたりの背後では、お腹の中にいるだろう千璃がうれしさを体現し、誕生へ。
舞台セットはシンプルだ。キューブや円柱型などカラフルな箱が様々に組み合わされ、出産台にもなる。場面転換でそれらを動かすのは出演者たちだ。「開けている優しい空間で、千璃ちゃんという命をキャストのみんなで見守っていくような流れを作りたくて」と下司。そしてニューヨーク・タイムズスクエアのシーン。障害を持つ千璃をベビーバギーに乗せ散歩する夫婦。が、行き交う人々の中で母・美香の心は…。
物語は主に両親と千璃の6歳まで、最後に18歳の千璃が登場。山口が体現するのは千璃の命のエネルギー(魂)や感情だ。「千璃ちゃんの持つ愛くるしさや皆に愛される力を自分の中に見つけながら大切に演じたい」と話す。「千璃を守ることに必死なようで実は千璃に守られている」と言う奥村は「とにかく丁寧に。作品の中で起きる奇蹟のような瞬間を信じて」。また和田は「この作品の本当の良さを伝えるためには、常に新鮮さを持っていないと」と初の父親役に臨む。最後に下司よりメッセージ。「千璃と両親の3人によって育まれた愛を描き、命が教えてくれるきらめきがたくさん詰まった時間をお届けします!」。
公演は、10月6日(木)から16日(日)まで、東京・博品館劇場、10月22日(土)・23日(日)大阪・松下IMPホールにて。チケット発売中。
取材・文:高橋晴代