ミニマル・ミュージックの金字塔として伝説的に語られるフィリップ・グラスの『浜辺のアインシュタイン』が10月30日(日)、あいおいニッセイ同和損保ザ・フェニックスホールで上演される。
フィリップ・グラス「浜辺のアインシュタイン」(演奏会形式・抜粋版) チケット情報
この『浜辺のアインシュタイン』という奇妙なタイトルの作品は、1976年、気鋭の演出家であったロバート・ウィルソンと作曲家のフィリップ・グラスにより、フランスのアヴィニョン演劇祭で初演されたオペラ作品である。当時、時代を象徴する存在であった科学者のアインシュタインをイメージした作品、とされるが、アインシュタイン自身も浜辺も作中には登場しない。明確な物語はなく、繰り返される歌唱と抽象化されたパフォーマンスが観るものを独特の酩酊感へと誘う、前衛的な表現に満ちたオペラである。日本初演は1992年10月。今年10月8日・9日には、神奈川県民ホールで一部の繰り返しを省略した4時間に及ぶオリジナル・バージョンが上演されるが、あいおいニッセイ同和損保ザ・フェニックスホールでは演奏会形式・抜粋版と銘打ち、よりグラスの音楽に特化した上演を行う。
ここでグラスが創造した音楽は極度に切り詰められた音型の繰り返しや、無機質で早口な合唱など、従来のオペラの文法からまったくかけ離れたものである。背景を覆う電子オルガンの響きの中に、電子的に調整されたヴァイオリン、サクソフォン、フルートなどの音が重ねられていく色彩感は、むしろ現代のロックやテクノなど、ポピュラー音楽への広がりなども示すものかも知れない。
今回、音楽監督を務めるのは電子オルガンも担当する中川賢一。以下、電子音響の有馬純寿をはじめとする13人が演奏と歌唱に臨む。『浜辺のアインシュタイン』の音楽について中川は「70年代の熱気をはらんだ、いわゆるグルーヴ感を持ったバンドサウンドのスタイル。今の時代のロックやクラブ系のコンサートの感覚で聴いても十分に刺激的」と語る。デジタルな音響が溢れる2020年代をすでに半世紀近く前に予見していたかのようなグラスの先進性は、この秋、新鮮な音楽体験となって私たちを揺さぶるに違いない。チケットは発売中。
取材・文:逢坂聖也