高崎:私のおすすめについては、藤谷さんに呼んでいただいた2017年上半期の座談会を読んでもらえると(笑)。下半期は諸事情で必要に迫られて、海外の最新チャートや80〜90年代のヴィジュアル系をひたすら聴く機会が多かったんですよね。新譜を評価する視点ではシーンを追えてないのが正直なところです。全世界と相対的に見ても、いやー、昔のV系面白くっていいですねえ。
山口:2017年はLUNA SEAのメンバーのソロ活動20周年ということで、SUGIZOさんの『TRUTH?』のリマスター盤が出たじゃないですか。僕、リリースされた当時は高校生で、聴いたときは正直意味がわからなかったんですけど、改めて聴くとあの時代にこんなに新しいことをやっていたんだとびっくりして。
藤谷:私、「ドラムンベース」という単語をこの時期のSUGIZOさんのインタビューで知った記憶があります。当時高校生だったんですけど、LUNA SEAメンバーのソロ活動ってあの当時の若いリスナーの耳を鍛えたと思うんですよね。
吉田:当時、H Jungle with tの影響か、まだ日本では「ジャングル」って言われているときに、海外ではスタンダードになってた「ドラムンベース」って呼び方を真っ先にしていて。トリップホップについてもそうだし、SUGIZOさんは早かったというか、ぶっちゃけ早すぎた(笑)。
藤谷:SUGIZOさんの最新作『ONENESS M』も豪華なゲストを迎えていて、その話題性に引けを取らない完成度の作品に仕上がっています。そして、前回の記事に付け加えるのであれば、ラッコの『弱肉教職』、Blu-BiLLioNの『EDEN』ですね。『EDEN』は彼らにとって過渡期にある作品だと思うんですけど、すごく前向きな印象を受けました。また、2016年に復活したメトロノームの『CONTINUE』はタイトル通りの快作だと思います。
2010年代後半のV系シーン、“台風の目 不在”説
高崎:私、最近気になっていることがあって。ここ5年くらい「メディアを使ったアプローチ」が更新されてませんよね。ニコニコ動画を使って頭角を現したゴールデンボンバーのような存在が出てきていない。「V系ってファンダムが強い、最新メディアに強い」という部分にアドバンテージがあったような気がしてたんですけど、いつからかそれが薄れててヤバい。
藤谷:ゴールデンボンバーは広告費を使わずに、ニコニコ動画に自分たちのパロディ動画をあげたりしてプロモーションしていましたからね。
高崎:InstagramやShowroom、LINELIVEを使っているバンドはいるにはいるけど、シーンの地図を書き換えてしまうような使い方をしているバンドがいないじゃないですか。
吉田:僕の感覚だと、いいと思うバンドはそれなりにいるんだけど、DEZERTとNOCTURNAL BLOODLUSTほどパンチのある若手バンドが、彼ら以降見えてこないんですよね。相変わらず元気な猟牙さんのRAZORも面白いけど、もう若手ではないし(笑)。
藤谷:個人的にはそこにアルルカンを付け加えたいです。つまり、2015年くらいに頭角を現したバンドたちの「次」が出てきていない印象があるということですね。個人的には2016年の座談会でも名前が出ましたけど、0.1gの誤算の勢いを感じた1年でした。
吉田:2017年はアイドルや歌い手といった他ジャンルとの対バンも多かった。誤算は、今年もアイドルと歌い手を迎えたイベントをやるじゃないですか。藤谷さんが言ったように「頭一つ抜けた」誤算でさえも、ヴィジュアル系の中だけにとどまっていることに危機感を覚えているんでしょうね。
高崎:私は都内のライブハウスで働いていたんですけど、3年前くらいにくらべて同じイベントでもお客さんが減っている感があるんです。エンタメ戦国時代、ヴィジュアル系のベンチマークは同じシーン内ではなく、ジャニーズやK-POP、2.5次元、アニメ、ソシャゲ……と、娯楽全般であることをひしひしと感じます。
藤谷:「ライブの時代」と言われてるけど、ライブハウス規模で考えると厳しいですよね。
吉田:フェスも淘汰されてきていて、その理由はフェスのヘッドライナーが代わり映えしないから、みたいな話はありますね。『Real Sound』でも柴那典さんが語っていたし、フェスのヘッドライナー常連バンドのあるメンバーとたまたまバーで会って話したとき、本人もそれを自覚してました(笑)。
藤谷:自分が見てる都内のイベントの印象の話になってしまうけれど、ノリ重視の傾向が進んでいくと、ワンマンならまだしもイベントだとバンドの印象も似通ってきてしまうんですよね。
これはヴィジュアル系に限った話じゃないですけど、リズム重視というか。2016年の座談会でもノリの話をしましたけど、結局現場の音楽を楽しむことと「ノリ」って切り離せなくなってるじゃないですか。
特に持ち時間の少ないイベントだと、「いかにノセるか」みたいな勝負になっている。そうなると現場以外での面白さが伝わりにくい。若い世代のバンドが見えにくいのはそれが理由でもあるのかなと。その中でも様々なアプローチを仕掛けて若手の中で頭一つ抜けたのが0.1gの誤算と言えるのかしら。