藤谷:アイコンが2次元でキャラクター的ではあったし、歌い手同士のコラボの関係性はあったけど、ストーリー性は希薄だったと当時の高崎さんは感じたわけですか。
吉田:そういう意味ではネット発の新世代ボーカリストに焦点を当てた『ROCK AND READ vocal』は反響がすごくて。彼らも今、世間から虐げられたシーンにいるんですけど、歌うことで自分の居場所を見つけているんです。
そういうことを語ってくれたんですけど、やっぱり文脈やストーリーが見えるインタビューって大事なんだなと思いましたね。だからバンドマンも語らなくなってきてしまうと、ストーリーがどんどん具現化しなくなっていくんじゃないかな。
藤谷:『ROCK AND READ vocal』の反響というのは、先程高崎さんが仰っていたように、これまでスポットが当たっていなかった「歌い手のストーリー」を掘り下げてくれるものだったからだと思うんですね。バンドの方もやはりストーリーを補強するようなインタビューが求められるということでしょうか。
山口:新譜についてしっかりと話を聞くことも大事だけど、それと合わせて、なぜそれをリリースしなければならなかったのか、今どういう状態にあるのか、どこに向かいたいのかというバンドのストーリーを伝えることも大事ですよね。
藤谷:そういえば、最近『@COSME』みたいな長文レビューよりも語彙力がないほうが……、たとえば「エモい」とか「好き」「かわいい」みたいなワンフレーズの方が共感を呼ぶという記事を読みました。
エンタメ方面でも100の言葉よりもTwitterでひと言コメントと動画を貼ってるのがめちゃくちゃバズってたりするじゃないですか。体感ベースの話ですがそっちの方が一見さんに「届いている」という実感はあります。コア層にはストーリーのある読み物を、その一方で入り口は広く設定したいところですよね。
高崎:エモと共感の最たるところが、ジャニオタのはてブ(※はてなブログ)だと思うんですよね。ジャニオタのはてブって推しへの気持ちがもう個人の独断と偏見でビックバンを起こしているんですけど、その中に普遍的なファン心理あるあるとか、共感とかがあって。
そのブロガーの推しのことを1ミリも知らなくても、もうドラマが見えるんですよ。私、ライブレポート記事をやるときはわりとジャニオタのはてブを意識してます。音楽オタクではなくファンダムに響く記事、みたいな。
藤谷:ファンの人が熱をもって書くからこそ「情報」ではなくて「ストーリー」になると。
吉田:結局、安易なバズを求めてもしょうがないんじゃないですか。共感だなんだって言ってるよりは「俺はこれだけ想いを持ってる」という音楽を個人的には聴きたい。 エゴの爆発でいいんですよ。そこが世の中に足りないのかなって思いますけどね。マーケティングとか戦略も大事だけど、本当の一番根っこにあるそれを言いたいからやりたいんだって気持ちが僕は知りたいです。
山口:「これが今流行ってます」っていう特集だけじゃなくて、こういうものがあります、こういう見方があります、こういう考え方があります、っていうのを紹介するのもメディアの在り方だと個人的に思います。
藤谷:では、ここで質問です。2017年に“グッときた記事”ってありますか?
私からいきますね。小川あかねさんという方の「ソロ活動15年の軌跡から紐解く、MIYAVIの現在地」という記事がすごく良かった。今の世間的なMIYAVIの評価って「脱V系」してから発見された文脈じゃないですか。そことこれまでの、PSカンパニー時代のMIYAVIの文脈を結合するレビューなんです。これぞさきほど皆さんが仰っていた「ストーリー」ですよね。あとは摩天楼オペラの彩雨さんのブログは日常雑記ではなくてテーマが多伎にわたっていて面白いです。
高崎:山口さんが仰っていた、「こういうものがあります、こういう見方があります、こういう考え方があります」っていうのがプロの視点で丁寧になされているものは、確かにめちゃめちゃ読んでほしいんですよ。音楽ライターにも「仕事頑張ろう」って気持ちになるのでおすすめです(笑)。
『Real Sound』や『現代ビジネス』に発売前の書籍の抜粋が載ってるじゃないですか。柴那典さんの『ヒットの崩壊』(講談社)の抜粋は特に刺激的でした。あとライターの冬将軍さんの記事も読み応えがあります。
吉田:僕は、特に音楽とは関係ないんですけど、吉田豪さんのTwitterが面白いと思ってます。吉田豪さんがRTするツイートを見ていると、なんでこれをそういうふうに捉えちゃうのかなとか、なんで調べもしないで間違った知識や持論で人を攻撃するのかなとか思うんですけど、全ての人に同じように伝わらないんだな、メディアに携わる人間として、言葉って難しいなってつくづく思わされて勉強になります(笑)。
山口:今『毎日新聞』でやっている「一億人の平成史」のインタビューが面白いんですよね。いろんな識者が平成を語るっていう。
藤谷:「ヴィジュアル系」も平成文化を振り返る時に出てくるものだと思うんですよ。今年はそういう大きな枠組みで見た歴史的な企画もやってみたいですね。例えば『WE ARE X』だってひとつの平成史ですし。
山口:そうですよね。ヴィジュアル系の歴史をいろんな視点から振り返りつつ、他のシーンや当時の世相との関連も踏まえて、俯瞰的に見れるものになると面白そうだなと思います。
高崎:ひとつの物事をいろんな視点で見ることの面白さを、もっと私たちが提供できればと思うんです。
藤谷:色々好き勝手に語ってきましたが、結局のところ「じゃあお前はどうなんだよ」っていうオチになるんですよね。「私も頑張ります」ってところで2018年もやっていきたいと思います。
(※座談会中の発言は個人の見解で、注釈は藤谷記載のものです)