藤谷:それはインタビューにかける時間やコストを他のことに使いたいということでしょうか。
吉田:良い悪いは別として、雑誌って作るのも出るのも手軽じゃないですからね。でも、それこそ80年代、90年代の頃は「とにかく雑誌に出たい」というバンドばかりだったのに。
藤谷:その時はメディアに力があったんですよね。発信するチャンネルがテレビと雑誌とラジオくらいしかなかったから。今は発信力がある人だったら、リリースインタビューよりも自分でブログ書いた方が早いこともある。つまりメディア、インタビュアー、編集側に「面倒くさい」と思わせないほどのパワーが必要になってくるんですよね。
山口:バンドとしても、メディアに頼らず、例えば自分たちのオフィシャルサイトにインタビューを載せて発信するという手も、あるとは思うんですけど……。
藤谷:公式サイトのオフィシャルインタビューって「編集者」が不在になるじゃないですか。そこが個人的にひっかかるんですよ。極論、WEBの記事ってバンドの公式アカウントがRTしてそのファンの人が読むというところで拡散の流れが止まるケースが多いじゃないですか。もちろん、つきつめたらライターと編集の力量の問題ですけどね。広がりを持つようなきっかけになる記事を打ち出すのは中々難しいと感じます。
言い出すとキリがないですけど、「たくさん読まれて」もそれで「ファンが増える」という確証はないわけじゃないですか。そうなると「面倒くさい」と思われても仕方ない部分もあるのかもしれません。
高崎:そういう意味では秋に放送された『関ジャム 完全燃SHOW』の特集『関ジャム音楽史~ヴィジュアル系編~』はエポックメイキングだったのではないかと思うんですが。
藤谷:その番組、私少しお手伝いしたんですが、スタッフの方がしっかりと「ジャンル」として誠実に向き合ってくれた番組でしたね。番組内で近年のV系の例として紹介されたLeetspeak monstersがとあるCDショップで大きな反響があったと聞きました。放送されたのが偶然ハロウィン前ということもあったからかもしれませんが、もともと面白いことをやっているバンドに、いい形でスポットが当たって良かったですね。
高崎:だから「メディア」ってひと言で言っても色々なやり方があるんだなと勇気をもらえたというか。
藤谷:しかし、年末の歌番組でヴィジュアル系が出るとなったら、たいていX JAPAN、LUNA SEA、あとはゴールデンボンバーみたいな感じじゃないですか。「今のバンドも面白いんだよ」ということをどうやって伝えたらいいんだろう。
山口:きっかけは90年代バンドでも、そういう導線をメディアがもっと作ることができたらいいですよね。
アーティストにもっとストーリーを!
高崎:でもその一方で、メディアとか外部の人間がバンドをピックアップするのはおこがましい時代に入っていくのではないかという想いもあるんです。「いいもの」は絶対ユーザーが見つけてしまえる時代なんですよ。
旧時代的なメディアの在り方じゃなくて、私たちも新しいものを提供しなければならない、そういう時代に突入してる、っていうのを加味して考えていかないといけないんじゃないでしょうか。
藤谷:流行りを追いかけても仕方ないとは思うんですが、情報の更新は必要ですよね。ところで、吉田さんがネット発のボーカリストを取り上げる雑誌を今立ち上げたのは何故なんでしょう。
吉田:luzさんがきっかけなんですけど、luzさんがLedaさんとRenoさんとツインギターを組むっていうから見たくて行ったら、客が20年前くらいのV系ファンのノリだったんですよ。若い子たちがアーティストに対して神を見てるような接し方をしていて、熱量も半端なかったし、かつて無敵だった頃のヴィジュアル系に近いノリだなって、そこから引き込まれていきました。
高崎:そうだ、私、昔歌い手の追っかけしてたんです。
吉田:5年くらい前? 蛇足さんとか。
高崎:ROOT FIVEが出てくる前ですね。最初に「ホストクラブ Smiley*2」っていう企画があったんです。あと寝下呂企画がバズったときの黎明期にいました。そこからGeroさんの追っかけをしてて。
藤谷:みんなアイコンがイラストだった時代だ。
高崎:私、そっちでバリバリ仕事を始めてもよかったんですけど、なんでヴィジュアル系に来たかというと、当時の歌い手シーンにはストーリーが感じられなかったんですね。歌い手も面白かったですよ、みんな上手くなっていくし。でもヴィジュアル系にはバンドにストーリーがあると感じたんです。